鎌倉といえば鶴岡八幡宮、長谷寺、鎌倉大仏、小町通りなど、幾多の観光名所があることで有名で、特に神社や仏閣などが多いことで観光客がとても多いです。

そんな鎌倉へは東京都心からの移動手段として、主に横須賀線や湘南新宿ラインの横須賀線直通列車など、鉄道路線が挙げられるかと思います。

一方で古都・鎌倉へ向かうこれらの路線と同じく、成田空港アクセス列車である特急「成田エクスプレス」は経由路線に横須賀線を含んでいます。

しかし外国人観光客にも人気な鎌倉への玄関口である、鎌倉駅まで成田エクスプレスは運行されず、2駅手前の大船駅で力尽きてしまいます。
いったいなぜなのでしょうか?

今回はなぜ横須賀線を走る「成田エクスプレス」が鎌倉まで運行されず、その手前の駅までの運行なのかについて解説します。

成田エクスプレスの概要

成田エクスプレスは、列車名に「成田」の文字が入っていることからわかるように、成田空港へのアクセス特急として運転されています。

1991年3月19日の成田空港駅開業から運転され、30年以上に渡って成田空港アクセスの選択肢の一つとして、親しまれています。

赤と黒・白の3色のカラーリングを纏い、「N‘EX」のロゴが描かれた車両が使われ、現在は全列車2代目車両のE259系が使用されています。

車内設備は空港アクセス特急にふさわしく、各車両に大型キャリーケースが置けるダイヤル施錠式荷物置場を設置しているほか、座席は暖房器具を壁に移動させたことにより足元空間を大きくし、座席下にも機内持ち込み可能サイズのスーツケースが収納可能なほか、全座席の肘掛けにJR東日本の車両としては初めて、100Vの電源用コンセント(Aタイプ)が設置されています。

また訪日外国人観光客にも分かりやすく、日本語・英語・中国語簡体字・韓国語の四ヶ国語に対応した案内表示ディスプレイを、客室内の天井とデッキに設置し、荷物置場の天井にはセキュリティ対策として防犯カメラが設置されており、安心・安全に利用ができます。

一方でJRの有料特急列車としてはトイレが比較的少なく、1号車と6号車のみに設置されています。

座席は1号車〜5号車が全席指定の普通車で、6号車がグリーン車となっています。

利用には予め指定席特急券(または座席未指定券)を購入する必要があります。

成田エクスプレスの運行区間・停車駅

成田エクスプレスの運行区間は、主に新宿〜成田空港間です。

しかし半数ほどの列車は東京駅から先を6両編成としたうえで、大船〜成田空港間で運転するほか、朝に成田空港行き、夜に八王子行きの2往復だけは、新宿から先中央線に乗り入れて八王子〜成田空港間で運行する列車もあります。

ほとんどの列車が成田空港〜東京間を12両編成で運転されていて、東京駅で横浜・大船方面と渋谷・新宿方面へ向かう列車が切り離されます。

ただし東京駅で連結・切り離し作業を行わない新宿・大船発着の12両編成の列車は、全区間12両編成で運転されます。

成田エクスプレスの停車駅

走行区間の横須賀線・総武線(快速)・総武本線・成田線は原則乗り換え路線に含んでいません

横浜方面発着新宿・八王子方面発着乗換路線備考
成田空港京成本線
京成成田スカイアクセス線
第1ターミナル
空港第2ビル京成本線
京成成田スカイアクセス線
第2ターミナル,第3ターミナル
成田京成本線(京成成田駅)
京成東成田線(芝山鉄道線直通含,京成成田駅)
成田線(香取・銚子方面/湖北・我孫子方面)
通勤時間帯の一部が停車
正月三が日に一部追加の臨時停車あり
佐倉総武本線(成東・銚子方面)通勤時間帯の一部が停車
四街道通勤時間帯の一部が停車
千葉総武線各駅停車
内房線
外房線
千葉都市モノレール
京成千葉線(千原線直通含,京成千葉駅)
横浜方面発着便連結列車を中心に半数程度が停車
東京東海道新幹線
東北・上越・北陸新幹線(北海道・秋田・山形新幹線)
山手線
京浜東北線
東海道線
宇都宮線・高崎線・常磐線(上野東京ライン)
中央線(快速電車)
京葉線
東京メトロ丸ノ内線
分割・併合はここで行う
総武地下ホーム発着
品川東海道新幹線
山手線
京浜東北線
東海道線
宇都宮線・高崎線・常磐線(上野東京ライン)
京急線(羽田空港・泉岳寺・都営浅草線方面)
原則全便停車だが東京駅で分割併合をする列車は片方が通過する
渋谷|山手線
埼京線
湘南新宿ライン
東急東横線
東急田園都市線
京王井の頭線
東京メトロ銀座線
東京メトロ半蔵門線
東京メトロ副都心線
新宿|山手線
埼京線
湘南新宿ライン
中央線(快速電車)
中央総武線各駅停車
京王線
小田急線
東京メトロ丸ノ内線
都営新宿線
都営大江戸線
主に5・6番線発着
吉祥寺|中央線(快速電車)
中央総武線各駅停車
京王井の頭線
三鷹|中央線(快速電車)
中央総武線各駅停車
国分寺|中央線(快速電車)
西武国分寺線
西武多摩湖線
立川|中央線(快速電車)
青梅線
南武線
多摩モノレール(立川北駅・立川南駅)
八王子|中央線(快速電車)
横浜線
八高線
武蔵小杉|南武線
湘南新宿ライン
東急東横線
東急目黒線
相鉄線直通列車
相鉄線直通列車は横須賀線ホーム(成田エクスプレスと同じ)と、東急線ホームを発着
横須賀線ホームからの列車は羽沢横浜国大までノンストップ、東急線ホームからの列車は日吉や新横浜などを経由しながら羽沢横浜国大へ向かう
横浜|東海道線
上野東京ライン
湘南新宿ライン
京浜東北線
根岸線
横浜線直通電車
京急線
東急東横線
相鉄線
みなとみらい線
横浜市営地下鉄ブルーライン
戸塚|東海道線
上野東京ライン
湘南新宿ライン
横浜市営地下鉄ブルーライン
大船|東海道線
横須賀線(鎌倉・逗子方面)
上野東京ライン
湘南新宿ライン
根岸線
湘南モノレール

なぜ、成田エクスプレスは鎌倉方面に行かない?

ところで大船発着の成田エクスプレスは、東京駅から先横須賀線を走行しています。

横須賀線は大船より先、鎌倉・逗子・久里浜方面へと線路が続いていて、その途中にある鎌倉は外国人観光客にも人気のスポットです。

冒頭でも述べた通り日本文化の一つと言っても過言ではない、神社や仏閣が多数存在しているので、鎌倉に延長しても問題なさそうに見えますが、現在では一切手前の大船駅より先に乗り入れることなく、鎌倉駅まで直通する成田エクスプレスは運転の見込みがありません。

いったいなぜなのでしょうか?

元々1991年の成田エクスプレス運行開始当初、横浜方面を発着する列車はすべて横浜駅を始発・終着駅としていました。

その後1993年以降一部が大船駅まで延長を開始しましたが、近年まで横浜駅を始発・終着駅とする列車も設定されていました。

ただし横浜駅での折り返しが難しいこともあってか、横浜駅到着後の横浜行き成田エクスプレスはそのまま回送され、保土ヶ谷駅付近の電留線や、成田エクスプレスの車両が所属している車両基地である、現在の鎌倉車両センターがある大船駅まで回送されていました。

横浜始発の成田エクスプレスについても同様に、保土ヶ谷駅付近の電留線で折り返すか、現在の鎌倉車両センターや大船駅から回送列車として送り込んでいました。

1993年からの大船延長運転開始は、車両を回送するついでに戸塚や大船からの利用も見込んでいるものと推測できます。

鎌倉駅では折り返しができない

また鎌倉駅では折り返すことができず、基本的に鎌倉行きの列車は一つ進んだ逗子駅か、そこから更に進んだ横須賀駅で折り返すことになります。

しかし逗子駅は湘南新宿ライン全列車の他、久里浜からの電車・東京方面からの電車問わず、多くの横須賀線電車もここで折り返します。

これは逗子以南の横須賀線自体が、横須賀市の中心街から離れている地域を走っていることもあってか、利用客がそこまで多くなく、また東逗子~久里浜間は11両編成までしか入れないこともあり、横須賀線電車の連結・切り離しを含めた、輸送力の調整を行うことも多いです。

しかしその割には駅構内に余裕がないのも事実と思われ、特急列車がのほほんと逗子駅で折り返し準備できる余裕は、余力的にあまりないものと考えます。

かつては臨時快速列車・現在は特急も運転

鎌倉方面への臨時列車としてはかつて「ホリデー快速鎌倉」をはじめとした各種臨時快速列車が運転されていたほか、現在でも臨時特急「鎌倉」が時折運転されます。

これらは逗子駅到着後即座に折り返し、大船駅まで回送された後車庫で折り返し準備が行われます。

かつては成田エクスプレスを鎌倉乗り入れも

成田エクスプレスについても鎌倉への観光客などを取り込む目的で、大船駅を始発・終着駅とする成田エクスプレスを、2014年3月から一部横須賀駅まで延長運転していました。

延長運転区間の停車駅は大船・北鎌倉・鎌倉・逗子・横須賀でしたが、利用状況が伸び悩んだことから、既に延長運転は行われていません。

同時期に運転開始した富士山への特急は好評

一方で横須賀駅まで成田エクスプレスが延長運転され始めた頃と同じ時期に、新宿駅を始発・終着駅とする列車を延長する形で、富士急行線河口湖駅発着の列車が設定されていました。
こちらは富士山などへの観光需要を狙って設定され、訪日外国人観光客から富士山が人気の観光地であることなどが関連し比較的好調でした。

河口湖駅までの成田エクスプレス延長運転に関しては、特急「富士回遊」が設定される2019年までの5年間続けられました。

大船行きの成田エクスプレスが運転が少ない理由は?

このような設定経緯や延長運転の失敗などがある一方で、そもそも新宿行きの成田エクスプレスと違って、大船行きの成田エクスプレス自体、東京・品川~大船間の利用率がかなり少ないことも原因に挙げられます。

成田空港から成田エクスプレスに乗車した利用客ですが、大半は山手線や中央線などの路線に乗り換え可能な東京駅で下車します。

ただし東京駅の場合は東海道新幹線のホームが地下にある横須賀線のホームからかなり離れた場所に設置されています。

そのためより容易に乗り換えが可能な品川駅で、成田エクスプレスから東海道新幹線に乗り継ぐ乗客が一定数います。

そして品川駅を出発した成田エクスプレスはほとんどの場合あまり乗客がいないのが現状です。

近隣住民や乗り換えでの利用がメインである戸塚や大船からの利用客が少ないのはともかく、利用客が一定数いる武蔵小杉や横浜を利用する乗客もそんなに多くはないというのが現実なのです。

最近になってえきねっとトクだ値チケットレスサービス(35%割引)を使用することで、普通列車グリーン車の料金と大差がない830円で東京~大船間など50km以内の区間で利用も可能になりました。(平日料金で50kmまでのグリーン料金は780円となります)

ただし線路設備の関係で速達性は横須賀線の普通列車と大差ないうえ、経路の関係でこの区間では成田エクスプレスより東海道線の普通列車の方が速達性も早いです。

そしてこの区間で通勤特急として利用するにも、大船駅までの利用でしたら特急「湘南」の方がえきねっと利用を加味しても安くて早いのが現実です。(通常時の最大割引を使用することで、特急料金が成田エクスプレスは830円、特急「湘南」は660円となります)

このため特急「湘南」と比較するとより快適な座席で移動可能くらいしか利点がなく、また通勤特急としての利用範囲では東京・品川~戸塚・大船間程度でしか利用客が見込めず、通勤特急としての利用を考えても絶望的な状況が伺えます。

こういった利用実態がある上に過去の延長運転に失敗したこともあってか、今後も鎌倉方面へと延長される見込みはないのに等しいです。
そもそも利用実態を考えると横浜方面まで1時間に1本程度のペースで、成田エクスプレスが直通すること自体奇跡という状況かもしれません。

まとめ

なぜ成田エクスプレスが鎌倉駅まで行かずに、その手前の大船駅までの運転となっているかについてですが、

・ そもそも成田エクスプレスの大船行きが設定されている理由が、横浜まで直通した後折り返しのついでに、という意味合いもあること
・ 過去には鎌倉・横須賀方面への延長運転が行われていたが、利用客が少なかったこともあってか数年で廃止されてしまったこと
・ そもそも品川~大船間の成田エクスプレスは、実質的に空気輸送状態と見てもおかしくないくらい、利用者が少ない場合が多いこと
・ こうした利用実態や過去の利用状況などを鑑みても、今後も鎌倉方面へ延長運転が行われる見込みはないこと

などについて知ることができたのではないのかと思います。

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