東京と長野方面を結ぶ特急あずさ号・かいじ号。そんな両列車ですが一体なぜ、多くの列車が新宿止まりの列車が多く運転となっているのでしょうか?

特急あずさ・かいじとは?

塩尻駅に入線するあずさ号

特急「あずさ」はJR東日本側の中央線の特急列車で、基本的に新宿と長野県の松本を結ぶ特急列車となります。

一方の特急「かいじ」は、新宿から主に山梨県の甲府・竜王まで向かう特急列車となります。

速達型で遠距離を結ぶ「あずさ」と、停車型で山梨県内までの比較的近〜中距離を結ぶ「かいじ」が基本的に交互に走っており、1時間あたり「あずさ」1本、「かいじ」1本が30分間隔で交互に走っています。
いずれの特急も高い乗車率を誇っており、JR東日本の特急列車の中では稼ぎ頭の列車です。

主に遠距離を結ぶ需要のための列車である一方、中央線快速電車の運転区間である東京〜立川・八王子間での利用も比較的多く、通勤特急代わりに利用されるケースもあります。

このニーズに対応するため東京〜八王子間の特急「はちおうじ」や、青梅線直通の特急「おうめ」もあり、また近距離区間の特急の混雑緩和目的も兼ねて、快速電車へのグリーン車連結も計画されています。

中央線用の普通列車グリーン車用車両の実車は登場済

なお以前あずさ号は速達型で車体傾斜機構によりカーブ通過速度を上げることが可能な車両(E351系)を使用した「スーパーあずさ」と停車型で車体傾斜機構を備えていない車両(E257系)を使用した「あずさ」の2種類に分かれていましたが、これは2019年3月に中央線の特急車両が車体傾斜機構を備えた現在の車両(E353系)で統一された際「あずさ」に統一されています。

スーパーあずさでかつて使用されていたE351系(全廃済)

ただし繁忙期を中心とした臨時列車で車体傾斜機構を備えていない旧型の車両(E257系)を使用した「あずさ」「かいじ」も運転されています。

装いは変わったが、繁忙期を中心にE257系のあずさやかいじもまだまだ見られる

このうち最速の「あずさ」37号の表定速度は約90km/hに及び新宿~松本間の所要時間は2時間29分となります。カーブの多い区間を多く含んでここまでの速度を出すというのはなかなかのものです。

ちなみに中央西線と呼ばれる名古屋側のJR東海が管轄する中央線でも、名古屋都心と長野地域を結ぶ特急「しなの」が運転されています。

特急「しなの」

「しなの」についてもカーブの多い中央線を区間に含みながら、車体傾斜機構の活用で名古屋〜長野間の表定速度85km/h以上を叩き出しています。
なおここでは「かいじ」も中央線の特急列車として「あずさ」と一括りにして紹介します。

なぜあずさは新宿止まりで東京まで行かないのか

さてそんな特急「あずさ」ですが、歴史的に新宿発着で運行されており、東京駅発着の「あずさ」が登場するのは1986年からです。

その後ダイヤ改正の度に増加傾向ではありますが、大半の列車が新宿発着であることには変わりありません。

どうして民営化直前まで、東京発着の「あずさ」は設定されなかったのでしょうか?

その理由ですが、特急列車は中央本線の「列車」であり営業上の中央本線(中央東線)とは新宿~塩尻間であるからです。

現在のJR東日本東京近郊区間の路線図で、中央本線を示す濃い青の線は立川で切れていますが、かつての路線図は濃い青い線は新宿まで伸びていました。

一方で新宿~東京間は過去から現在に至るまで中央線快速電車のオレンジの線しか引かれていません。

つまり列車の起点は新宿、かつて国電やE電などとも呼ばれた電車の起点は東京と、明確に分離されていたのです。

中央線の東京駅は以前、電車の始発という位置づけだった

そして中央本線の普通列車はかつて、国電区間では新宿、立川、八王子、高尾のみの停車でした。
国鉄時代末期の1986年には三鷹も停車駅に加えられていますが快速電車の中央特快より停車駅が少なかったのです。
国鉄時代、列車と電車はたとえ同じ線路を走っていても全く別の運行形態を取っており、列車の一部である特急は新宿発着になっていたのです。
なおこの名残としてか2017年までは、平日深夜に新宿発着で中野を通過する中央特快も運転されていました。
現在は普通列車が立川より都心側に乗り入れないため、特急がどうして新宿発着なのか不思議に思う人が、以前よりも増えているものと思います。
高尾より先に行く普通列車、急行列車、特急列車は、全て新宿発着が長らくの不文律だったのです。

最大の理由と考えられる東京駅中央線ホーム

しかしながら国鉄が民営化しJR東日本になってそのようなしがらみが消えても、なおほとんどの中央線特急列車は新宿発着です。

その理由は非常に簡単なことであり、東京駅の容量不足です。

東京駅中央線ホームの容量がとにかく足りない

というのも中央線の特急を東京に乗り入れさせたくても、東京駅の中央線ホームが線路2本分しかありません。

ただでさえ快速電車の本数が多い中折り返し時間のかかる特急を入れる余地は一切ないのです。

国鉄時代はそもそも中央線の特急を東京駅に乗り入れさせるという考え自体が殆どなく、東京駅に列車用ホームが無いのです。

現在の中央線快速電車は通勤ラッシュ時間帯に快速電車が1時間に30本近く走っており、これを捌くだけで線路2本では限界の状態です。

最混雑時間帯は快速電車が1分程度で折り返すこともあり、快速電車へのグリーン車導入でも東京駅の折り返しは大丈夫なのか?という声があがるほどです。

そのため中央線の特急列車は東京駅まで行かず、余裕ある折り返し時間の確保が可能な新宿駅を始発・終点としている列車が多いのです。

新宿駅は中央線快速電車用のホームが線路4本分、さらに中央線列車用のホームが線路2本分あり、本来の中央線のターミナルは新宿であることがわかります。

ただし朝時間帯に東京行き、昼下がり~夜間帯には東京発の中央線特急列車もわずかですが設定されています。

なぜ東京発着のあずさが存在している?

快速電車の折り返しだけでも限界な中で、東京駅までの特急ダイヤを組み込むのには、列車ダイヤを組む職員さんの相当な苦労があるかと思います。

それでも特急を東京駅まで乗り入れさせている理由は、第一に新幹線への接続、他に八重洲や大手町などのオフィス街へ乗り換えなしで行けるという利便性向上のためです。

大手町のオフィスビル群

ちなみに2007年11月に新宿駅の配線改良工事が完成し、特急ダイヤ設定上の制約が若干緩和しています。

現在の新宿駅は快速電車の上下線ホームである、7・8・11・12番線にサンドイッチされる形で、中央線特急列車用のホームである9・10番線が配置されています。

しかしかつての新宿駅は5・6番線が特急ホーム、7~10番線が快速電車でした。

そのため特急列車は快速線の線路を横断する必要があり、ここで平面交差支障が発生しダイヤ設定上のネックになっていたのです。

この支障が解消したことによりダイヤに柔軟性が増しただけでなく、東京方面への出発、また東京方面からの入線時にも、平面交差の支障が無くなり、東京発着の中央線特急列車が設定しやすくなりました。

ただし東京行き・千葉行きのあずさを中心に、一部上り特急列車は快速線ホームの7番線に発着するケースがあります。

それでも東京駅中央線ホームの容量不足には変わりはなく、特急の東京乗り入れにはかなりの工夫がされています。

とにかく東京駅での折り返し時間を短くする必要があるのです。

特急が東京駅に長時間停車していると快速電車用に使える線路が1本しかなくなり、快速電車の運行に支障が出ます。

そこで東京駅に到着した中央線の特急列車は、特急列車特有の折り返し作業である車内清掃やゴミ袋の交換、座席の回転などといった折り返し作業を東京駅で行いません。

これらの折り返し作業は新宿~東京間を回送している途中や、新宿駅の特急ホームで行うことで対処しています。

そのため東京行きの中央線特急列車は、東京駅に到着した後はすぐに回送で新宿駅などへ向かいますし、東京駅始発の中央線特急列車も回送で新宿駅などから東京駅へ向かって、東京駅到着後に特急列車となって乗客を乗せて折り返すようになっています。

JR東日本の全路線で最も過密とも言える都心側の中央線、その中で特急を走らせることだけでも大変な苦労があることが容易に想像つきます。

その中でも東京駅への乗り入れにはさらなる課題を乗り越えてダイヤを設定しています。

快速電車へのグリーン車連結後は、一部の利用者が特急から快速電車グリーン車に流れることも予想され、今後中央線特急列車の運行体制が、どのように変化するのかも注目と言えるでしょう。

また中央線快速電車のグリーン車連結によって、都内で完結する中央線の短距離特急「はちおうじ」「おうめ」の運行体系も変化が出るかもしれません。

中央線の運行形態が今後、快速列車・特急列車ともどのような形になるのかは、より一層注目する必要がありそうです。

まとめ

今回の記事をご覧いただいたことによって、中央線の特急「あずさ」がなぜわずかに東京駅に届かず、新宿止まりである列車が多い理由について、

・ 国鉄時代はそもそも中央線の列車は新宿駅が始発・終点であり、東京駅に特急列車を乗り入れさせる考えすらなかったこと
・ 新宿駅の構内配線も2007年に改良工事が終わるまでは、東京駅に特急列車を運転させる前提の構造になっていなかったこと
・ ただし国鉄時代末期になってから、徐々に中央線の特急列車が東京駅まで乗り入れるようになっていること
・ しかしそれでもわずかな列車しか東京駅に乗り入れない理由は、東京駅の中央線ホームの容量が足りていないこと
・ 東京駅まで中央線の特急列車を乗り入れさせるために、前後の列車は回送列車にさせるなど、様々な工夫があること

おすすめの記事