今回はよく分からない駅名「印旛日本医大」を紹介します。
印旛日本医大行きの列車は、見たことあってもどこの行き先だか分からない方も多いと思います。
そこで今回は印旛日本医大についての秘密に迫っていきたいと思います。
印旛日本医大行きが設定されている理由
印旛日本医大行きの列車が多数列車が設定されている理由は何なのでしょうか?
先に答えを言うと、印旛日本医大行きは都営浅草線・京急線の直通運転先である、北総線の終点まで行く列車であるからです。
北総線は、東京都葛飾区の京成高砂駅と千葉県印西市の印旛日本医大駅までを結ぶ、北総鉄道株式会社が運営している鉄道路線です。
北総鉄道は京成電鉄や千葉県などが出資する第三セクターで、北総線は全長約32kmしかありません。
そのため北総線沿線在住の方以外は、印旛日本医大駅どころか、北総線という路線自体をよく知らないという方もいるのではないでしょうか。
しかし北総線の起点は京成高砂駅ですが、実際のところはほぼ全ての列車が京成線はもちろん、さらにその先の都営浅草線、京急線とも直通運転をしています。
これが印旛日本医大行きという電車を、東京都内や羽田空港などで見かける理由となります。
なぜ印旛日本医大行きは誕生したのか
そもそも印旛日本医大駅はなぜ北総線の終点となったのでしょうか?
それは北総線が千葉ニュータウンと都心を結ぶ路線として開通したことにあります。
千葉ニュータウンは、千葉県の白井市・船橋市・印西市にまたがる大開発都市です。
1966年に千葉県が「千葉ニュータウン基本構想」を発表しました。
これを受けて設立されたのが、今の北総鉄道株式会社である北総開発鉄道株式会社でした。
千葉ニュータウンは当初、計画人口34万人、計画面積約2912haという日本最大のニュータウンになる予定でした。
ところが、1970年代のオイルショックや1990年代のバブル崩壊などの影響によって事業は大幅に縮小されました。
それでも現在の千葉ニュータウンには総面積約1930haに計画人口143300人とされ、そのうち約10万人が住んでいます。
首都圏では東京都内郊外の多摩ニュータウンや、横浜市北部の港北ニュータウンに次ぐ巨大なニュータウンであり、近年は自然が豊富に残された環境に大規模ショッピングモールが次々と進出し、とりわけ子育て世代の転入が増加傾向となっています。
その中で印旛日本医大駅周辺は千葉ニュータウンの最東部に位置しているため、北総線の終点として選ばれたのでした。
ちなみに印旛日本医大駅の1つ手前には印西牧の原駅があり、この印西牧の原駅周辺には北総線の車庫があります。
その関係で印西牧の原行きという電車も時々見かけることがあります。
また印旛日本医大行きの電車は羽田空港でよく見かけることが多い行先で、品川・都心方面に向かう列車の半数程度は印旛日本医大行きです。
その理由は、北総線と都営浅草線が絡む列車の多くが、羽田空港まで乗り入れるためです。
一方で、印旛日本医大行きは意外な地域でも見ることができ、運用上の都合で神奈川県内の京急線方面からの印旛日本医大行きが1日に数本あります。
そのため横浜・横須賀地域などでも、ごく稀に印旛日本医大行きを見かけることがあります。
なお京急の車両による印旛日本医大行きまたは印西牧の原行きの場合は、印旛日本医大駅開業に伴う行先表示用方向幕を交換して以降、わかりやすさを重視して品川までは車両の行先表示で「品川・日本橋方面 印旛日本医大」や「品川方面印旛日本医大」などと表記しています。
実は知られていない都営新宿線との意外な関係
ところで、千葉ニュータウンへのアクセス路線を建設するとなった際、計画当初は現在の京成高砂駅ではなく、都営新宿線本八幡駅を起点とする案がありました。
1973年に東京都交通局と千葉県開発局は、東京都が本八幡駅までを、千葉県が残りの区間を「千葉県営鉄道北千葉線」として建設し、完成後は直通運転を実施する計画で覚書を交わしていましたが、この年にオイルショックが始まってしまいました。
東京都交通局側が建設・運営する本八幡駅までの工事はなんとか続行し、都営新宿線の本八幡駅は1989年に開業しました。
しかし本八幡駅より先の千葉県側の計画は、1978年に凍結されてしまいました。
その後本八幡駅より先の地域では、鉄道空白地帯の解消のために引き続き路線の建設が模索されたこともありましたが、すでに少子化が進み沿線人口の増加が期待できないとして、実現には至りませんでした。
こうして都営新宿線が、本八幡駅から千葉ニュータウンへ延伸する計画は幻となったのです。
もし都営新宿線が千葉ニュータウンへのアクセス路線になっていたら、都営新宿線やその直通先路線である京王線で、「印旛日本医大行き」が見られたかもしれませんし、「多摩ニュータウン」と「千葉ニュータウン」という2つの巨大ニュータウンが1本の線路で結ばれていたかもしれません。
印旛日本医大駅には何がある?
ここまで印旛日本医大行きがなぜ設定されているのか、そしてどういった経緯で印旛日本医大行きが設定されているのか、などについて解説していきました。
ところで印旛日本医大駅とはどんな駅で、周辺にはどのような施設などがあるのでしょうか。
印旛日本医大駅は、千葉県の印西市にあります。
印西市は千葉県の北部に位置する千葉ニュータウンの拠点都市で、人口約10万人のうち6割以上を千葉ニュータウン区域が占めています。
また、国内企業だけでなく世界中の企業からデータセンターが集まることから、「情報城下町」とも言われています。
ところで印旛日本医大駅の「印旛」とはなんでしょうか。
それは駅が位置する場所が2010年に印西市に編入・合併する前、印旛村だったことに由来しています。
この地域は古代に「いには野地区」と呼ばれ、それが変化して印旛になったと言われています。
印旛日本医大駅周辺は千葉ニュータウンの最後のエリアとして、2000年に街開きが行われました。
印旛日本医大駅の開業も、街開きと同じ2000年です。
その印旛日本医大駅の駅舎は日本の駅としてはかなり珍しく、展望台やドーム型がデザインされた独特な外観となっています。
コンセプトは「森の中の駅舎」で、展望台は高さ34メートルを誇る時計台の上部に設けられています。
この展望台、過去には開業当時の試乗会や社会科見学などで公開されたこともあったようですが、普段は保安上の理由などから非公開とされています。
またドーム型の高い天井の下にあるのは、改札口外のコンコースに設けられた広場です。
この空間は駅で小規模なイベント等の開催が可能なスペースとして、複数の小窓から採光が図られた明るい造りとなっています。
さらにその小窓のひとつからは時計台が覗けるようになっており、そのためコンコースには時計がありません。
また建築材料に多くの自然素材が取り入れられていることや、デザイン性、駅構内の無段差化など、バリアフリーにも配慮されているのも特徴です。
これらの特徴が評価され印旛日本医大駅の駅舎は、関東運輸局の「関東の駅百選」に認定されています。
まさに千葉ニュータウンのシンボルらしい駅と言えるのではないでしょうか。
実は印旛日本医大という大学は存在しない
印旛日本医大駅の由来は、この駅を最寄りとしている「日本医科大学千葉北総病院」です。
日本医科大学千葉北総病院は、フジテレビ系列が制作・放送した人気テレビドラマ「コード・ブルー」シリーズのロケ地としても知られていています。
またドクターヘリを早期に導入した病院としても知られています。
一方で駅名は印旛日本医大ですが、印旛日本医大駅周辺に日本医科大学のキャンパスはありません。
ただし日本医科大学千葉北総病院の付近に、日本医科大学系列の日本医科大学看護専門学校があります。
他はニュータウンに属する住宅以外ほぼ何も無く、周辺にある商業施設は国道464号沿道のロードサイド店舗が中心です。
ただしアクセス特急を利用して比較的短時間で成田空港へ向かえるという利点があるためか、2023年3月13日よりビジネスホテルの「東横イン 印旛日本医大駅前」がオープンする予定です。
実は印旛日本医大ではなく田舎っぽい駅名が予定されていた
ところで、印旛日本医大駅の建設時の駅名の仮称は、近隣の地名をとって「印旛松虫」でした。
この地域には「松虫姫伝説」という伝承があり、松虫とは奈良時代の724年~749年に在位した第45代天皇「聖武天皇」の皇女のうちの1人「不和内親王」を指します。
そのため今でも印旛日本医大駅の副駅名には「松虫姫」が付いているのです。
印旛日本医大駅は北総線の終点ですが、現在は成田スカイアクセス線の途中駅でもあるため、成田空港方面にも線路が伸びています。
ただし成田スカイアクセス線として新規に開業した印旛日本医大~成田空港間に北総線の列車は乗り入れないため、北総線列車は従来通りここで高砂方面に折り返します。
これに関連して成田空港寄りの内側2線に、北総線列車用の折り返し線が設置されました。
この折り返し線の使用が開始される前の北総線列車はホームに面した線路でそのまま折り返していましたが、北総線列車のホーム占有時間を削減する目的とそれに関連した折り返し線の整備により、2008年4月よりこの折り返し線を使って北総線列車は折り返しています。
印旛日本医大駅に停車する列車は印旛日本医大を終点とする北総線列車の全てと、成田スカイアクセス線のアクセス特急です。
成田スカイアクセス線のスカイライナーは通過し、ここから先成田空港方面は最高速度が130km/hから、国内在来線最速の160km/hになります。
印旛日本医大まで行くと高額運賃が請求される
ちなみに東京方面から印旛日本医大駅まで来ると、かなり高額な運賃を請求されます。
その費用はICカード利用時の運賃で計算すると、下記の表の通りになります。
入場した駅 | 運賃(京急線運賃改定まで) | 運賃(京急線運賃改定以降推定) |
押上(スカイツリー前) | 1000円 | 1000円 |
浅草 | 1138円 | 1138円 |
日本橋 | 1180円 | 1180円 |
品川 | 1368円 | 1382円 |
羽田空港第3ターミナル | 1484円 | 1519円 |
羽田空港第1・第2ターミナル | 1525円 | 1555円 |
横浜 | 1546円 | 1579円 |
三崎口 | 2175円 | 1972円 |
いずれも1000円以上と高額であり、このうち北総線区間に占める運賃は811円となります。
これは、北総線の利用客数が当初の千葉ニュータウン事業計画に対して少ないことや、建設費用が高く付いたことによります。
さらに京成線を経由して東京都心や羽田空港方面などへ行く場合、都営浅草線や京急線との直通運転している鉄道会社ごとに運賃が必要です。
若干の乗継割引があるとはいえ複数の事業者を利用するため、運賃が高くなるのは仕方ない面もあります。
ただし北総線は建設費用の返済がある程度進んだため、2022年10月から運賃の値下げを行っています。
中距離区間を中心に最大100円(ICカード利用で105円)の値下げを行い、印旛日本医大~京成高砂間では以前の運賃は837円(ICカード利用)となっていました。
まとめ
ここまで印旛日本医大行きについてまとめると
・印旛日本医大は千葉県の北総線にある駅名
・印旛日本医大行きは直通運転のおかげで都内でも行先を見ることが出来る
・印旛日本医大という大学病院は存在しない
・元々印旛日本医大ではなく、印旛松虫の予定だった
・都営新宿線の本八幡から延伸する幻の計画があった
・印旛日本医大まで行くと高額運賃が請求される