京急蒲田駅は羽田空港から京急線に乗車した後、最初に通ることになる主要駅であり、羽田空港の玄関口ともいえる駅です。
ただこの京急蒲田駅、実は「要塞」と呼ばれているのです。
京急蒲田駅は羽田空港から京急線に乗車した後、最初に通ることになる主要駅でありながら、本線と空港線の分岐点にある京急線内における重要な駅の1つです。
このような変わった呼び名が付いているのは、一体なぜなのでしょうか。
京急蒲田駅とは?
羽田空港の玄関口としても知られている京急蒲田駅は、東京都大田区にある京急の主要駅のひとつです。
駅の構造としては1階が改札階、2階が上りホーム、3階が下りホームの三層構造となっています。
2階と3階は同じ形状をしたホームであり、1番線〜3番線が3階、4番線〜6番線が2階と、全部で6つののりばが配置されています。
京急蒲田駅の改札から各ホームへ行くには、それぞれの階に繋がる専用のエスカレーターに乗ります。
行き先の階によって乗るエスカレーターが異なるというのは、初めて利用する方には分かりにくいかもしれません。
また京急蒲田駅には改札口がひとつしかないというのも特徴です。
京急蒲田駅の路線と運転本数は?
京急本線と京急空港線の分岐駅でもあります。
京急蒲田駅には日中時間帯ベースで平均3分弱に1本、1時間あたり20本以上もの電車が停車します。
停車する列車の種別は快特・特急・エアポート急行・普通車の4つです。
蒲田要塞と言われる理由①同じ方面の列車が違う階から発車する
京急蒲田駅のホームは基本的に2階が品川・都心方面、3階が横浜・横須賀方面と覚えておけばいいのですが、ややこしいのは空港線羽田空港方面の列車が、2階と3階の両方で発着していることです。
まず2階のホームには、横浜方面からの快特・特急・普通車が品川方面へ向けて発車します。
また羽田空港方面から品川方面へ向かう快特・特急・エアポート急行・普通車も、2階ホームから発車します。
横浜方面から来る快特・特急・エアポート急行・普通車も2階ホームを利用しますが、ここで見られるのが「スイッチバック」です。
横浜方面から来る列車は京急蒲田駅で乗客の乗り降りが終わったら、来た方向とは逆の方向へ出発して羽田空港方面へ向かうのです。
一方で3階のホームを利用する電車は、まず品川方面から横浜方面へ向かう快特・特急・普通車です。
また品川方面からの快特・特急・エアポート急行が、羽田空港方面へ向かう際も3階ホームに停車します。
さらにここでもスイッチバックする列車があり、羽田空港方面から横浜方面へ向かう特急とエアポート急行は、入線した方向と逆方向の横浜方面へ出発します。
エアポート快特等の一部列車は京急蒲田駅を通過する
なお有料着席列車の「モーニング・ウィング号」と「イブニング・ウィング号」、および主に羽田・成田両空港を結ぶエアポート快特は、京急蒲田駅を通過することになっています。
蒲田要塞と言われる理由②鉄道なのに縦列駐車?
先ほど京急蒲田駅には全部で6つののりばが配置されていると紹介しました。
しかし3階のホームに行くと目に入るのは、両側にある1番線と3番線だけです。
同様に4番線〜6番線があるとされる2階のホームでは、一見すると4番線と6番線しかないように見えます。
2番線と5番線は、どこにあるのでしょうか。
2番線と5番線がどこに配置されているのかですが、それぞれ3階と2階のホームの端です。
より具体的に述べると、3番線と6番線の浦賀方に縦列する形で配置されています。
この不思議な構造には次のような理由があります。
縦列駐車ならぬ縦列停車をする理由とは?
線路が2本配されている中間にホームがあり、ホームの両側が線路と面している構造の駅を、一般的に「島式ホーム」と呼びます。
通常の島式ホームは、1つのホームに2つの線路を対面で配置します。
このうち追い越しが可能な駅の場合は片側を主本線、もう片方に副本線を配するケースが多いです。
この場合多くの場合で通過駅のある速い列車が、各駅停車などより遅い列車を追い越すことが可能です。
その場合副本線に待避する遅い列車が数分~十数分程度停車し、その間に主本線をより速い特急などの列車が追い越していきます。
かといってさらに隣の線路に待避線を作ったとしても、乗り継ぎに上下移動が発生する可能性もあるほか、そもそもとして敷地が足りませんでした。
そこでもう片方の線路を枝分かれさせて、ホームの一部を切り欠くように待避線を作り出すことで、ホームの片側に何とか2つの線路を作ったのです。
この切り欠き上に設けられた待避線の存在こそが、京急蒲田駅の2番線と5番線なのです。
蒲田要塞と言われる理由③ホームの長さが389mもある
その結果京急蒲田駅のホーム全体の長さはかなり長くなり、ホーム全長は389mにも及ぶことになりました。
蒲田要塞と言われる理由④蒲田ダッシュとは?
時間帯によっては速達列車と普通車を乗り換える乗客が、ホームを縦方向にダッシュする「蒲田ダッシュ」と呼ばれる光景が見られます。
通常の駅であれば対面するのりばへ移動するだけで済むことに比べると、かなり独特な構造でしょう。
この京急蒲田駅の2番線と5番線は、主に平日朝時間帯に普通車が速達列車を待避するために用いられるほか、主に日中時間帯に品川~京急蒲田間で運転されていた普通車が、時間調整を行うためなどとしても利用されていました。
ただ最近ではあまり見られなくなった?
しかしこの普通車については、2020年5月から運休となっていた後、2021年3月のダイヤ改正で廃止。
以降は平日朝時間帯以外で利用する電車がほぼなくなり、特に土休日は電車がほぼ発着しなくなりました。
そのため最近では3階ホームの2番線を用いて、主に土休日にイベントや展示会などを行うケースも多々あります。
最近ではすみっコぐらし10周年号の展示や、新1000形1890番台の第65回鉄道友の会ブルーリボン賞授賞式などが、京急蒲田駅2番線を用いて行われました。
京急蒲田駅の周辺 昔は「京浜蒲田駅」だった
そんな京急蒲田駅の周辺ですが、アーケード街や小規模の商店街、中規模のビルが林立している地域です。
高層の建物に関しては2015年に住宅やスーパー「ライフ」京急蒲田駅前店などが入居する、20階建の「あすとウィズ」が開業しています。
またこれと同時に西口周辺の駅前広場も整備され、駅の高架下には京急ストアや飲食店、大田区観光情報センター、セブンイレブンなどのある商業施設「ウィングキッチン京急蒲田」がオープンしました。
また東口を出てすぐには、小規模~中規模程度の同人即売会などのイベント開催で有名な、大田区産業プラザ(PIO)という施設もあります。
ちなみに京急蒲田駅は1987年に現在の駅名へ改称される以前、「京浜蒲田駅」という駅名となっていました。
この名残で現在も駅周辺には「京浜蒲田商店街あすと」や「京浜蒲田公園」、「京浜蒲田町会」などと旧駅名を用いているものがあります。
JR蒲田駅と京急蒲田駅は800m離れている
なお大田区や蒲田地域の中心的な機能や商業施設が集まる、JR蒲田駅は西口を出て西側へ800メートルほど離れた場所にあります。
商店街のアーケード下を通った後に十字路交差点をそのまま直進し、ブックオフがある三叉路で大通りに出てそのまま直進すると、JR蒲田駅の東口に到達します。
時間にして徒歩でおよそ10分~15分くらいを要し、振替輸送などの際に案内がある場合もありますが、乗換駅としては扱われていません。
またJR蒲田駅でも西口側の商店街・大学・専門学校などや、東急池上線・東急多摩川線を利用する際は、プラス5分くらいを見積もりましょう。
ちなみにこの間にはバスもたくさん走っていますが、バスを利用してもそこまで時間短縮効果はありません。
特にワンコイン運賃が廃止された現在となっては、蒲田駅と京急蒲田駅の移動にてバスにわざわざ乗車する理由はないでしょう。
今後は蒲蒲線で便利に?
ただし今後はこの区間に蒲蒲線という路線が建設される計画があり、この間の移動の利便性は今後良くなるかもしれません。
京急蒲田要塞は一体なぜ誕生したのか?
今では要塞となった京急蒲田駅ですが、以前は本線の上下線2線と空港線1線のみの構造でした。
なぜこうなっていたのかと言うと、単純にこの構造で十分だったから、それに尽きます。
当時は名ばかりの空港線だった
かつて京急空港線の終点である羽田空港駅は、名ばかりの羽田空港駅と言っていい存在でした。
羽田空港への最寄り駅といっても、実際には海老取川と呼ばれる多摩川系の一級河川を挟んで、空港島の対岸にある駅で利用客も多くありませんでした。
そのため当時の空港線は大田区内のローカル線という位置づけで、主に3両編成の電車が線内を往復しているだけの状態。
利用者も地域住民が中心で、羽田空港アクセスというのも名ばかりだったのです。
京急蒲田はかつて快特は通過していた
京急蒲田駅自体も当時はそれほど重要な駅という訳ではなく、1954年7月以降は特急こそ停車するようになっていましたが、1968年から設定されていた快速特急(現:快特)については、1995年から夕方の下り列車が停車するようになった以外は、通過していました。
朝の品川行き通勤快特も同様で、1995年に停車するようになるまでは通過していました。
転機は1998年の羽田空港地下乗り入れ乗客が急増
ところが1998年に京急空港線が羽田空港のターミナル直下に乗り入れを開始すると、利便性が高まり乗客が急増します。
この際空港線京急蒲田駅周辺が半径80mの急カーブを伴った単線、かつ住宅や商店などが密集しており複線化も不可能という状態がネックになります
さらに2010年には羽田空港の再国際化にあわせて、羽田空港国際線ターミナル駅も開業。
この頃の空港線は成田空港との直通列車や、横浜方面からのアクセス改善などで運行本数を増やしており、もともと運行本数の多い本線も合わせると、京急蒲田駅の線路3本だけでは無理が生じていたのです。
かつてあった京急蒲田の踏切は渋滞が深刻化 箱根駅伝でも話題に
また列車本数が増加すると付近の踏切遮断時間も増加します。
特に都内でも有数の混雑道路である第一京浜と交わる、京急蒲田(空)第1踏切道などは慢性的な交通渋滞が深刻になりました。
さらに京急蒲田(空)第1踏切道は、正月の風物詩である東京箱根間往復大学駅伝競走 通称「箱根駅伝」の1区・10区の経路にも含まれており、踏切関連でのトラブルや臨時ダイヤ作成の手間、および一部列車の行先変更などもあり問題となっていました。
これらのボトルネックを解消するために、京急蒲田駅付近の連続立体高架化工事が行われたのです。
しかしそのまま高架化するだけでは敷地が足らず、列車本数のネックが解消できません。
そこで空港線を複線化して重層高架にすることで、これを解消することにしました。
事業主体は東京都で、国土交通省の補助金も活用した巨大プロジェクトになりました。
そして2001年の工事開始から2012年までの長い期間をかけて、本線平和島~六郷土手間4.7kmと、空港線京急蒲田~大鳥居間の高架化および駅舎の建て替えが行われ、付近の踏切も28箇所がなくなりました。
また空港線はこれによって全線複線化を達成、さらに急カーブについても少しだけ緩和されたようです。こうした工事の結果、京急蒲田駅は異様でゴツイ見た目になり、「蒲田要塞」と呼ばれるようになったという訳なのです。
他にも全国にある要塞駅は?
京急蒲田駅などのように、こういった「要塞」と呼ばれるような見た目の駅は他にもあり、ここでは一例を紹介します。
- 布施駅(近鉄電車 大阪線・奈良線)「布施要塞」
- 青砥駅(京成線 京成本線・押上線)「青砥要塞」
- 太田川駅(名鉄線 常滑線・河和線)「太田川要塞」
また、将来的に「要塞」と化す駅には下記の一例があります。
- 知立駅(名鉄線 名古屋本線・三河線)「知立要塞」
- 2023年3月21日から順次要塞に線路が移されます
- 淡路駅(阪急電車 京都線・千里線)「淡路要塞」
- 線路切り替え時期は未定
まとめ
京急蒲田駅について解説してきましたがまとめると
・異様にゴツイ見た目であることが、蒲田要塞と言われる理由
・駅は三層構造に加え、本線が縦列して待避できる長いホームを持つこと
・もともと要塞ではなく、羽田空港直結による列車本数の増加などで高架化や建て替えが必要になった結果、要塞化したこと
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