東京の地下鉄が他の鉄道会社と直通運転することは何ら珍しくないですが、直通先の路線はほとんどが私鉄の路線です。

JR線と直通している路線はわずかに2路線のみであり、千代田線と東西線のみです。
というのも歴史的に東京都の鉄道整備の考え方などから、山手線の内側に私鉄路線が進出できなかった一方、JRの路線は山手線内を昔から走っており、地下鉄に乗り入れる意味がないというのが大きいことが考えられます。

では千代田線と東西線がJR線と直通する理由は何かですが、端的に答えると国鉄の通勤五方面作戦に関係するもの、というのがどちらも当てはまります。

千代田線は直通先のJR常磐線各駅停車と、小田急も巻き込む形で現在も大規模に直通運転をしています。

一方東西線とJR総武線各駅停車の直通運転に関しては比較的小規模です。

今回の記事では、そんな東西線とJR総武線各駅停車の直通について見ていきます。

そもそも東京メトロ東西線とは?

高架区間を走る東西線の電車(05系「アルミ・リサイクルカー」)

東京メトロ東西線はその名の通り東京を東西に貫く路線で、中野~西船橋間の30.8㎞を結ぶ路線です。

東側の区間である西葛西~西船橋間は地上の高架線を走り、この区間では快速運転も行われるなど、東京メトロの路線にしては異色の存在です。

1969年の全線開業時、この地上区間の一面には田畑が広がっており、郊外鉄道としての性格も東西線は兼ね備えているのです。

そのような性格から乗客の乗車距離が長く、首都圏有数の混雑率でも知られランキングワーストクラスの常連で、最近でも2013年~2019年にかけて、木場→門前仲町間で199%以上という混雑率をたたき出していました。

地下鉄という性格上路線や駅構内などの抜本的改良が難しく、比較的対策がしやすい車両側や、ダイヤの工夫、キャンペーンでの対策がメインとなっていました。

扉幅が通常1.3m程度のところ1.8mもあるワイドドア車両が走るのもその一環であり、他路線で多扉車などの混雑対策の車両がほぼ全て消えた今、その存在を示す唯一の路線となっているほか、さらに少しでも混雑率を改善するため、一部の駅では大規模な改良工事が行われ始めています。

東西線の特徴のひとつ、幅1.8mのワイドドアを装備した電車(15000系)

さてそんな東西線ですが、路線の両端でJR線と接続しています。

西側の中野からは中央線各駅停車の三鷹まで、東側の西船橋からは総武線各駅停車の津田沼まで直通運転を行っています。

ただし津田沼までの直通列車は朝夕の一部のみに限られ、西船橋から先は東葉高速鉄道線への直通列車がメインです。

三鷹駅に入線する東西線の電車(05系)

そもそも乗り入れ・直通運転の意味はあるのか?

先程も述べた通り東西線は路線の両端でJR線と繋がっており、中野からは中央線各駅停車の三鷹まで、西船橋からは総武線各駅停車の津田沼まで直通します。

ただこの東西線の乗り入れ先の中央線各駅停車と総武線各駅停車も、御茶ノ水を境に三鷹~津田沼・千葉間にてほぼ全ての電車が直通運転をしており、東西線がわざわざ乗り入れなくとも、利便性が損なわれることはありません。

総武線各駅停車の黄色い電車

中央線区間と総武線区間、両方の各駅停車で使用される電車も同じ黄色い電車、運行形態も中央線と総武線両方の各駅停車が一体であり、それどころか中央線の各駅停車まで含めて、総武線と呼ばれるケースも多々あります。

なおここから先、本記事では特筆するべき箇所を除き三鷹~千葉間を走る中央線・総武線の各駅停車についてまとめて「総武線」または「総武線各駅停車」と呼称します。

話が少々それましたが、東西線直通電車が走る区間においては、同じ行き先なのにJR線経由か地下鉄東西線経由かと紛らわしいほか、地下鉄直通の方が明らかに空いていて、本来の総武線各駅停車の方が混雑していることもあり、「迷惑乗り入れ」と言われても仕方ない面があります。

JRとしてもこの直通運転を維持するために、車体設計を中心とした仕様の異なる地下鉄東西線直通用の電車を、わざわざ用意しなければいけません。

さらにこのJR線との直通運転について、西船橋駅と中野駅の構造が原因で運賃計算が厄介になる問題も抱えています。

【廃止したい?】東京メトロを悩ませる運賃収受問題 一部区間ではタダ乗りも

途中が地下鉄経由なのかJR経由なのか異なるものの、電車の運転区間は総武線各駅停車も東西線も変わりません。

しかし中野駅と西船橋駅では、JR線と東西線の間に中間改札が長らくなく、中野駅には今でもありません。

この結果何が起こるかと言うと、JRの切符で地下鉄に乗れてしまうほか、逆に地下鉄のきっぷでJRに乗れてしまうということにもなります。

今やほとんどの人が交通系ICカードで乗車すると思いますが、この場合中野以西から西船橋以東の運賃計算は、地下鉄を経由していようが否かに関わらず、高額となるJR線経由での運賃が適用されます。

そのためこの区間で地下鉄経由での運賃にするには、地下鉄経由のきっぷを購入する必要があります。

これでは東京メトロが適切な運賃を収受できず、損することにもなります。

そこで2007年3月にPASMOサービスの開始、およびPASMO・Suica相互利用の開始に伴い、西船橋駅構内にはJR線のりばと東西線・東葉高速鉄道線のりばとの間に、中間改札が設置され乗客が経由した路線の識別が容易になりました。

東西線・東葉高速鉄道線コンコースとJR線コンコースの間にある中間改札

これである程度の問題は解消されますが、一方で津田沼発着のJR総武線直通電車に乗った場合、この中間改札を通りません。

そのため東西線内で下車せずに中野以西と船橋以東を利用した際は、経由路線に関わらずJR線経由での運賃が差し引かれます。

ただ津田沼までの直通電車の本数が朝夕の一部に限られるがゆえ、この問題に目をつぶっている状況といえます。(むしろ両方とも中間改札機がなく、なおかつJRと東京メトロが共同で使用している東西線中野駅と千代田線綾瀬駅を経由してJR線に乗車する場合、東京メトロを介して乗車しても全区間JR線運賃になるらしく、此方の方が問題と言えそうです)

一方の中野駅は東京メトロがJRの駅を間借りしている状況で、コンコースも手狭で中間改札を設置するスペースもなく、仮に設置すると乗り換え客で混雑を助長するという可能性もあります。

こういった運賃計算の面倒さなども、直通運転を廃止したいとする根拠に挙げられるかもしれません。

それでも続く直通運転 いったいなぜ?背景は建設経緯に

ではどうして地下鉄東西線とJR総武線の直通運転は、いまだに行われているのでしょうか。

それは、東西線が建設された歴史的経緯が主な理由です。

東西線はそもそも中央線と総武線の殺人的混雑を緩和するための、バイパス路線として建設されました。

昔も今も変わらず混雑が激しい中央線

東西線の建設が計画され始めた当時、総武線は全線で複々線化されておらず、中央線の複々線区間も御茶ノ水~中野間のみでした。

高度経済成長も相まって現在の通勤ラッシュとは比較にならないほど、本当の殺人的混雑が発生していたのです。

よって総武線各駅停車との直通運転も、然るべきして始まったということになります。

厳密に言えばこれらは国の方針に基づき、国鉄と営団地下鉄が取りきめをかわしており、今更直通をやめたくてもそう簡単にやめられないという事情もあります。

東西線の建設と並行して中央線が三鷹まで複々線化し、総武線も複々線化とそれに伴う総武快速線の整備があり、東西線の建設と国鉄の複々線の推進が相まって、この区間の混雑率はやや緩和に向かったのです。

総武快速線の存在はかなり大きかったと考えられる

もっとも西側は立川まで複々線化ができておらず、オレンジ色の中央線快速電車に乗客が殺到した結果、こちらの混雑が殺人的になり、逆に黄色い電車の各駅停車や東西線直通電車は、朝ラッシュ時でも比較的空いている事例が多いという、ちぐはぐな状況も発生しています。

ただそれよりも問題なのは東西線の東側である、地上区間の沿線で宅地開発が一気に進んだことにあり、地上区間を中心に沿線でマンションなどが大きく増えた結果、東西線そのものの利用者が急増し混雑が悪化していることです。
その結果東西線が中央線・総武線のバイパスを果たす路線という性格は薄れ、現在は千葉方面と都心を結ぶ通勤路線へと変貌を遂げています。
よってそんな中、総武線各駅停車と直通運転したところで意味があるのか?と言われる状況になっているのです。

中央総武線・東西線の直通運転廃止の可能性は?

あまりメリットが無いと思われがちな、東西線とJR総武線の直通運転ですが、今後廃止される可能性はあるのでしょうか?

まずは西船橋側から考えますが、これは西船橋駅構内のキャパシティ容量不足が原因にあると考えます。

西船橋駅が千葉県ナンバーワン利用客数を誇る駅になったにも関わらず、現在も総武快速線が西船橋駅を通過している理由と同じであり、西船橋駅でJR線と東西線を乗り換える乗客を少しでも減らして、西船橋駅構内のキャパシティに少しでも余裕を持たせるために、継続していることが考えられます。

千葉県最大の利用者数になった西船橋駅 総武快速線は未だに通過

一方中野側については中野駅構内の混雑緩和もあると思いますが、終日そこそこの本数が運転されていることもあり、少ないながらも直通利用客が一定数いるからと考えます。

日中15分に1本程度でJR側の距離は10km弱と、細々とした直通運転が続く理由はここにあるのではないでしょうか。

中野駅で発車を待つ東西線の電車
左側の4番線は東京メトロ管轄、右の5番線はJR管轄で、5番線は三鷹から来る黄色い総武線も使用する

また中野駅構内の構造が非常に複雑であることにより、乗り換え客で動線が交錯することを少しでも防ぐことや、中野~三鷹間の列車本数も一部東西線直通列車が肩代わりしていること、それに伴う総武線各駅停車用の黄色い電車の使用本数なども関係しそうです。

こういった事情などから、中野側の直通運転も現在に至るまで終日に渡って継続しているといえそうです。

東西線に直通運転する総武線の電車の廃止の噂とその根拠

先に述べた理由から東西線の直通電車が廃止されることは、現状ほぼないと言えるでしょう。
しかし一時期そのような噂があったのも事実であり、最近になってもそんな噂がありましたが、主に考えられる事柄に2種類あるため、それぞれについて見てみましょう。

ホームドアを理由に廃止の噂

ひとつは、ホームドア関連を根拠にした廃止の噂です。

ホームドアはその構造上、運用される各車両の扉配置の寸法は概ね統一しなければならず、関連して総武線各駅停車の電車は全て扉間隔が概ね一緒の寸法となっています。

総武線各駅停車でも東西線直通電車が絡まない区間では、ホームドアの設置・稼働も徐々に始まっています。

一方で東西線から来る電車は変則的な扉配置をした電車があったり、ワイドドア車両などもあったりなどするうえ、JRから直通する電車も扉寸法が微妙に異なっています。それらの多種多様な扉配置・扉幅寸法の車両が、程よいバランスで混じっていたこともあり、以前の考え方ではホームドア設置が困難でした。

そこで東京メトロはナブテスコとの共同開発で、二重扉式の大開口ホームドアを中心に東西線各駅でホームドアの導入を進めています。

竹橋駅の大開口ホームドア 車両はJRから来る電車
同型のホームドアは半蔵門線の表参道駅と錦糸町駅にも設置されている

しかしJR東日本のホームドアは系列会社のJR東日本メカトロニクスが担当しているようであり(製造は主に三菱電機らしいです)、ナブテスコとは別にホームドアの開発を行わなければならず、扉関係の寸法を統一することによってホームドアの導入障壁を下げることが、直通廃止の根拠として挙げられました。

しかし根岸線桜木町駅などで、明らかにナブテスコ製とは思えないような形状をした、異なる扉配置の車両の混在に対応した類似構造のホームドアを設置したことや、開口幅の設計変更が比較的容易なスマートホームドアの採用が進んだことなど、ホームドア関連での直通廃止は理由としてかなり薄くなりました。

根岸線桜木町駅の二重扉式ホームドア
京浜東北線電車中間車と横浜線電車先頭車のズレた扉配置に対応するために採用

ちなみにこのような大開口ホームドアは近年ナブテスコ以外でも製造しているようで、例えばOsaka Metro堺筋線のホームドアは、堺筋本町駅に先行設置されたもの以外は東西線のホームドアのように大開口式となっていますが、こちらは京三製作所というまた別のメーカーが製造しているものとなっています。

堺筋線日本橋駅の大開口ホームドア

また最低限停車だけでも自動運転になることで、二重扉式の大開口ホームドアが要らなくなる可能性もあるようです。

車両の更新を理由に廃止する噂

もうひとつは東西線に直通するJR東日本の車両である、E231系800番台の機器更新工事が長年行われていなかったことが挙げられました。

長らく機器更新工事が行われなかった、東西線を走るJR所有車両であるE231系800番台

東西線への直通運転に際してJR東日本も東西線直通用の車両があり、それがE231系800番台と呼ばれる車両です。

この車両は基本こそ総武線各駅停車や武蔵野線などで今も走る、他のE231系と同じなのですが、幅の広い車両が地下鉄に入れないこと、災害等の対応に際した前面非常扉の設置など、地下鉄直通に関連した車体の設計変更が行われているほか、比較的アップダウンの多く駅間も短い地下鉄での運用にあたり、車両性能の強化も設計変更に挙げられます。

一方で他のE231系で延命を目的に急速に進められた、老朽化した主要な電子機器を新品に取り換える、機器更新工事が長らく行われていませんでした。

昔総武線で走っていた武蔵野線のE231系 当然これも機器更新工事施工済である

特にE231系の通勤型仕様においては、他の車両が全て機器更新工事を終えたにもかかわらず、800番代だけ長らく機器更新工事が行われず、機器更新を受けずに廃車?という推測も出来る状況でした。

JR東日本側の地下鉄東西線直通用車両はたった10両編成7本であり、十両~百両単位で単一線区に同じ車両を大量に導入する、

昨今のJR東日本の車両事情を考えれば、少数派な車両の存在は厄介以外の何者でもないと思うのもあります。

ただしこれは単純にE231系800番台の運用数が少なく、それに関連して走行距離が少ないことも背景にあると考えられます。

そして最近になって機器更新工事の施工がスタートし、2023年に入ってから機器更新工事を完了した編成も現れるようになり、これを理由に廃止する根拠は完全に潰されました。

以上に挙げた理由から、JR総武線各駅停車と地下鉄東西線の直通運転は、今後もしばらくは続くと考えられます。

まとめ

今回の一見意味のなさそうなJR総武線各駅停車と東京メトロ東西線の乗り入れについてですが、現在も乗り入れが続いていることについて

・ もともと東西線の建設経緯が中央線と総武線のバイパスも兼ねるためでもあり、中央線と総武線の混雑緩和のために東西線と直通運転を行い始めたこと
・ 現在まで続いている理由は西船橋側の場合西船橋駅構内のキャパシティ問題、中野側の場合は利用客が一定数いることや車両需給問題が考えられること
・ しかし現在はそこまで多く利用者がいないこと、および合理化などの理由もあり廃止の噂も度々上がること
・ 最近になっても廃止の噂が上がり、ホームドア問題と車両の使用経過年数に伴う延命処置などの問題があったことが根拠にあったこと
・ ただその噂について、今となっては完全に潰されていること

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