通勤通学時間帯に混雑する路線と言えば、東京メトロ東西線や、JR埼京線、JR中央線快速電車などの路線が挙げられます。

いずれもJRや大手私鉄などの会社の路線となり、その会社の基幹路線ともなっていることが多いのですが、中には赤字に悩まされる混雑路線もあります。

首都圏では東葉高速線、北総線、りんかい線、つくばエクスプレスなどが挙げられますが、その多くの事例で建設費が原因の赤字です。

しかし赤字の混雑路線でも日暮里・舎人ライナーは、通勤通学時間帯にかなり混雑するのですが、収支状況だけで見ても赤字が連続しているのです。

今回はそんな日暮里・舎人ライナーが通勤通学時間帯に混雑するのに、なぜ大赤字なのかについて解説していきます。

日暮里・舎人ライナーの概要

日暮里舎人ライナー

日暮里・舎人ライナーは日暮里駅と見沼代親水公園駅の間を結ぶ路線で、路線距離は9.7kmという数値で短くなっています。

運営は浅草線や三田線など都営地下鉄を運営する東京都交通局であり、運賃は都営地下鉄のをベースにしつつも独自に設定されており、その金額は比較的高額です。

この日暮里・舎人ライナーは一般的な電車とは違い線路が無く、自動車と同じゴムタイヤで走行し、案内用のレールに沿って運転する方式を採用しています。

コンクリート路盤の上を走行するためモノレールと勘違いされがちですが、この方式は主に「新交通システム」や「AGT(自動案内軌条式旅客輸送システム)」と呼ばれる全く違う方式です。

この方式で運転される列車は日本国内でも他に採用例があり、都内ではゆりかもめ、他には横浜のシーサイドライン、神戸の六甲ライナー、広島のアストラムラインなどがあります。

日暮里・舎人ライナーは2008年に開業した比較的新しい路線です。

当時足立区舎人地区の地域は鉄道路線がなく、住民の足としては主に日暮里駅方面へ向かう都営バスの里48系統などが使用されており、里48系統などは通勤・通学の足として激しく混雑していました。

一方その都営バスが経由する尾久橋通り近辺は、足立トラックターミナルなど物流関係の施設が多くあり、トラックなどの通行量が多く慢性的な渋滞が発生し、日暮里駅までかなりの時間がかかるようになっていました。

この渋滞によりバスの定時運行が困難な状況となっていることを受け、この地域では昔から鉄道の設置の要望がありました。

1985年以降に鉄道建設が行われ、当初は地下鉄南北線の支線として建設される予定でしたが、新交通システムに建設方式を変更。

1997年から建設工事をはじめて1999年度に開業を予定していましたが、荒川区近辺の土地買収などに時間がかかった影響で遅れに遅れ、2002年度、2008年3月30日の開業と延期されています。

最終的に2008年3月30日に全線が一括で開業しました。

ただしそれまでの都営バス里48系統なども日暮里・舎人ライナーの開業後、本数は減らされてはいますが今も日暮里・舎人ライナーと共存しています。

日暮里・舎人ライナーはなぜ混雑する?

そんな日暮里・舎人ライナーですが、慢性的に通勤・通学時間帯を中心に慢性的な混雑に悩まされています。

日暮里・舎人ライナーが混雑する理由の一つとしては、開業以前は沿線の地域が都内屈指の鉄道空白地帯であったことが挙げられます。

沿線の足立区、荒川区には東武線、日比谷線、千代田線、常磐線、都電荒川線、つくばエクスプレス、京成本線などの路線が走っています。

しかし足立区舎人周辺地域はかつて鉄道路線がなく、交通の便が悪い地域だったのです。

そこで日暮里・舎人ライナーが開業し、西日暮里駅や日暮里駅まで渋滞に引っかかることがなく、スムーズに行けるようになりました。

それにより利用者は年々増加し、開業初年度の2008年度の1日平均で4万8000人程度の乗車人員を記録したほか、そこから更に利用者は右肩上がりで増加し、2019年度の一日平均乗車人員は9万人を超えています。
2020年度以降は生活スタイルの変化により減っていますが、それでも1日平均7万人以上の乗車人員を記録しており、もし生活スタイルの変化がなければ10万人突破もあり得たペースです。

混雑率も2014年度以降は190%近い数値を記録し、2020年度以降も減ったとしても140%以上で推移し、ライフスタイルの変化で東西線、総武線などの主要混雑路線が混雑率ワーストランキングから消え去った今、この日暮里・舎人ライナーが全国の混雑率ワースト1位となっています。

さてそんな日暮里・舎人ライナーの混雑が悪化した要因として、交通の便が悪い地域に開業した新規路線ということも挙げましたが他にも重要な理由があります。

それは都心の多くの街に近い割に沿線の地価が安いことが理由として挙げられ、これも近年まで鉄道路線がなかったことが関係します。

それゆえ近年駅周辺にマンションなど集合住宅の建設が相次ぎ、地価が安い分住居費も都内の他の地域と比較して安価であり、これは日暮里・舎人ライナーの勢力人口がどんどん増える原因のひとつとなっています。

また日暮里・舎人ライナーの沿線には舎人公園というテニスコートや陸上競技場、キャンプ場などの施設が充実した大きな公園があります。

その他沿線に足立区・荒川区立の小中学校なども充実しており、子育てにはもってこいのエリアであるという事も相まって人口増加に拍車を掛けているのではないかと考えます。

また埼玉県川口市・草加市などの近隣地域から日暮里・舎人ライナーの駅へ向かうバス(東武バスセントラルの路線バスや川口市・草加市のコミュニティバス)も運転されるようになっています。

それを使用して日暮里・舎人ライナーの駅まで出る乗客が増えたことも少なからず混雑に影響を与えていると考えられます。

また電車の車内レイアウトも混雑が激しくする原因があります。

開業時から日暮里・舎人ライナーの主力車両として使われている300形は登場当初乗客の詰込みを抑え重量オーバーを避けるため、わざと詰込みがあまり効かない座席の配置を取っていました。

しかし開業初期から利用者が殺到した結果より詰込みが効く車内に改造されていますが、それでも完全な詰込み仕様にはされていません。

この重量オーバー問題は2015年以降に製造されている330形や320形などの新型車両で車体の軽量化を行い、完全な詰込み仕様の座席配置とされています。

開業時から用いられている300形についても2022年以降、これらの詰込みが効く新型車両への取替が順次進められています。

日本一大混雑するのに赤字に悩まされる理由

そんな日暮里・舎人ライナーですが、先述した通り2020年度以降の混雑率ランキングで、日本ワーストになっていると述べました。

しかし混雑率ワーストの日暮里・舎人ライナーは同時に慢性的な赤字に悩まされる路線でもあるのです。

これは新興路線ゆえ重くのしかかった建設費などの理由もありますが、主な原因として考えられることとして沿線住民以外の利用客を呼び込む施設がほぼない点が挙げられます。

ただそれっぽい施設もあり、あらかわ遊園や西新井大師、舎人公園などが該当するかと思います。

しかしあらかわ遊園を利用するのであれば他の駅から都電を利用しますし、西新井大師についても東武線で大師前駅に出たほうが近く、舎人公園も沿線住民以外の利用客を呼び込むような施設ではありません。

沿線住民が沿線に何もないと言ってもおかしくない状態なのです。

そしてそれに関連して日暮里・舎人ライナーが大混雑するにも関わらず慢性的な赤字に悩まされる理由は、通勤時間帯以外における利用者が少なく設備を有効に活用できていないことが理由となります。

このため混雑対応に関する設備の改良を行うことが難しく、安全上の観点や設備上の観点などからこれ以上の抜本的輸送力増強は事実上困難な状態が続いています。

ただし2022年1月に熊野前駅付近にあった東京女子医科大学東医療センターが、東京女子医科大学附属足立医療センターと名前を変え江北駅周辺に移転しました。

そのためこの病院に通院するためには必ず日暮里・舎人ライナーを利用する必要が出たほか、ここには看護学校も併設されており通学のために一定の学生利用客が見込めるようにもなりました。

まとめ

日暮里舎人ライナー赤字についてまとめると、

・ 通勤通学時間帯は激しく混雑するが、それ以外の時間帯や逆方向はあまり混雑していないことが原因であること
・ 混雑が激しい理由としては、もともと鉄道空白地帯だったこと、沿線の地下・家賃代が安いことが理由であること
・ 一方閑散時間帯の利用客が少ない原因として、日暮里・舎人ライナー沿線にはこれといって魅力的なスポットがないこと
・ 最近は大学病院および看護学校の移転などがあり、逆方向や閑散時間帯の利用者も少しマシな方向に向かっていること

おすすめの記事