今回はJR東日本で走行しているE235系電車がなぜ電子レンジになっているのかについて解説していきたいと思います。
今回の内容は動画でも見ることが出来ます。(素材など一部内容が異なります。ご了承ください。)
E235系電車とは?
現在のJR東日本における最新型車両であり、山手線・横須賀線・総武快速線で主に走行しているE235系。
ところでみなさん、このE235系を見ていると、みなさんもよく使うあるものに見えてきませんか?
その中でよく言われるのは「電子レンジ」です。
他にはスマートフォンとか言われることもありましたが、一番思うのは電子レンジという感想ではないのでしょうか?
そして先代のE233系などに比べると、平べったい前面形状であることが目立つと思います。
ところでどうしてE235系は、直線的で平べったく電子レンジのような前面になったのでしょうか?
今回はJR東日本の最新型一般電車であるE235系が、どうして平べったくて電子レンジのような顔をしているのか、その理由についてを解説・考察していきます。
JR東日本の最新型電車であるE235系は、2015年に登場した首都圏地区における一般車両として登場しました。
なおE235系は長編成で最適化された構成とされ、4両程度以下の短い組成での運用がメインとされる線区には、E235系と別の新型車両としてE131系が用意されています。
E235系はそれまでの首都圏在来線で走ってきた、E233系までの一般車両を基礎として発展させたものとなります。
開発イメージは「人と対話する車両」、キーワードは「お客さま、社会とコミュニケーションする車両」。
そのうえで旅客サービスの向上、環境性能の向上、さらなる安全性・安定性の向上を念頭に開発されています。
デザインはE7系等のデザインを手がけた奥山清行氏
デザインの監修にはエンツォフェラーリのデザインや、E6系新幹線、E7系・W7系新幹線、Osaka Metro中央線400系などのデザインも手がけた奥山清行氏が担当しています。
外観はE231系を改造・編入した48両の山手線用10号車を除き、車体外側に出っ張っていた雨樋を内側に収めると同時に、それまで若干内傾していた車体を垂直にしています。
車体のラインカラーはホームドアを意識して、それまで横方向に入っていた緑のラインカラーが、垂直方向のドア部分に入っていることが特徴です。
ただし横須賀線向けとなる1000番台では、上部のラインカラーを太くしながらも、引き続き横方向のラインカラーが目立つものになっています。
なぜE235系は電子レンジになったのか?
E235系の前面は先ほども説明したように、とにかく平べったい形状が特徴です。
また黒くブラックアウトされている部分や、ガラスの面積が比較的多いことに縁取りなども相まって、スマホや電子レンジのような印象を持ちます。
そのほかアップルウォッチのような見た目だと、当初言われていたこともありました。
デザイン自体は山手線向けが緑と黒のグラデーションで、ドットの大小でグラデーションを表現しています。
横須賀線・総武快速線向けはスカ色と呼ばれる、青とクリームの組み合わせにアレンジされ、青を基調にクリームとのグラデーションになっています。
車内の床模様や客用扉の扉当て部分に表記された黄色い注意喚起のマーキングも含めて、全体的にE235系ではグラデーションが目立っているのです。
さらに前面上部のガラス内部と側面には、フルカラーLED式の行き先表示器が設けられています。
これはアンチエイリアス処理を施すことや路線のラインカラーを表示させることなどによって、よりグラデーションが強調されたものとなっています。
ちなみにこのうち前面行き先表示器の横には、いずれもLED式の赤色に光るテールライトと、白色に光るヘッドライトが設けられているのですが、このうちテールランプは無点灯状態で黒くなるものと、白色のクリアテールになるものの2種類が存在します。
これは表示器やテールランプなどのメーカーの差異によるものです。
そして前面を見ていて非常に目立つこととして、ガラスも含めてとにかく平べったいことがあります。
先代のE233系では特に曲面ガラスが目立ち、また209系も含めてJR東日本の通勤電車においては、1枚の大型ガラスを使う形式が多かったのに対して、E235系では2つの平面ガラスを組み合わせて、上下に分割された仕様としています。
ではE235系が平面的な前面になった元凶とも言える、2枚に分割された平面ガラスを採用した理由とはなんでしょう?
電子レンジになってしまった理由とは?
さてここからはE235系の電子レンジらしさや平面さを強調する要素、フロントガラスが平面ガラスになっている理由を解説しますが、それを説明する前にまずは電車のフロントガラスについて、少しでも理解を深めましょう。
ここで皆様に質問がございますが、電車の前面に付いているフロントガラス、あれ意外と割れる頻度が高いことを皆様はご存知でしょうか?
最近でも一定の頻度で発生してしまう、列車と人が接触する触車事故などといった事柄は、呆然と見ているだけでも想像が付きやすいと思います。
ですがそれ以外にも自然現象によるヒビ、また投石だけでなく自然発生した小石などを含めたモノとの接触、それにバードストライクなど動物との衝突も原因になり得ます。
さらに鉄道車両は一般の自動車などとは比較もできないくらい、高速で長時間稼働し続ける乗り物でもあります。
それだけ空気という物体に当たり続ける時間・エネルギーも多く、結果フロントガラスのヒビ割れにも繋がってしまう可能性も高くなると考えることができるでしょう。
この他に曇り止めの熱線の劣化・破断が原因による交換もあり得るようです。
フロントガラスというのは安全面で重要な部品で、ヒビのせいで信号を含め安全確認が十分できないとなると、安全上の大問題に繋がる恐れもあります。
なのでガラスにヒビが入って前が見えなくなると、即座に交換作業をしなければならないのは当然。
その他にも予防保全でひび割れが起きる前の段階にて、頻繁にこのフロントガラスは交換しているようなのです。
さらにフロントガラスは形式ごとに特注な場合も多く、またガラスの面積自体も大きくなればなるほど、その価格は高額になっていきます。
そしてE233系のように曲面ガラスを採用するとなれば、もちろん製造の段階でひと手間加わってしまうため、それだけ調達コストが上昇することになります。
鉄道車両よりもロット数が大きく小さい自動車でも、そのフロントガラスの交換費用については、部品代だけで10万円から20万円は普通にかかる代物です。
ならより巨大な1枚ガラスを採用したうえで、ロット数も小さくなる鉄道車両の大型前面ガラスであれば、もっと高額になってもおかしくはないでしょう。
一説には1枚数十万円とも言われているらしいのですが、こう考えると行先表示器の部分まで1枚のガラスになっており、曲面ガラスとなっているE233系のフロントガラスであれば、1枚100万円と言われても安く感じてしまうかもしれません。
視界は広く確保した方が安全面で都合が良い関係やガラス製造技術の向上による大型1枚ガラスの普及などもあり、かつての電車のようにフロントガラスを幾つかに分割し、前面の部分だけでも貫通扉など一切関係なしで、2分割から3分割されるということは少なくなりました。
それでもやはり大型ガラスというのは価格が高価、なおかつ交換作業においても日数が掛かってしまい、複数人で作業する作業員さんの負担がかかるだけでなく、数日突発の運用離脱で車両のやり繰りも大変になり、ガラス交換だけでも現場には多大な負担となってしまいます。
もちろん費用という観点から会社としてお財布にも痛いです。
そういう関係から小ロットの車両ほど規格品の採用、または既存車と同一部品の流用などが行われることも多いです。
電子レンジ以外にもフロントガラスを使いまわしている例も
実はJR東日本の在来線電車においては、フロントガラス部品の使いまわしが比較的頻繁に実施されています。
例えば鶴見線向けのE131系1000番台は、線区特有の事情から幅の狭いストレート車体を採用し、前面も非貫通構造の幅の狭めたデザインとなりました。
しかし貫通構造のように見えるデザインとなっており、これは左右のフロントガラスの部品について、他のE131系と同じ部品を使用するためだと考えます。
そのE131系のフロントガラスについても、新潟で走るE129系や仙石東北ラインのHB-E210形などと同じガラスの部品を使っていると推測することができます。
他にもJR東日本内においてはHB-E300形もいい例であり、デザインの関係から一見すると流用部品が全くなさそうに見えます。
しかし実はこの車両のフロントガラス、E233系で使用されるモノと同じガラスを用いており、角度を変えてE233系用フロントガラスを取り付けているのです。
さらに209系500番台と800番台を除くE231系、それに常磐線のE531系についても、同じフロントガラス部品を使っているように見えます。
それだけフロントガラスが高価で小ロットの部品であり、JR東日本内部でもできるだけ同じ部品を色々な形式で使いまわすことで予備品の共通化やロット数を少しでも増やすことなど、少しでもコストを下げつつ安全な運行ができるよう、最大限の努力がなされていることがここからもわかるのです。
E235系は電子レンジになったことでコストカットをしている
E235系の前面が平面顔になった理由ですが、実は理由がすべてここに集約されます。
特に交換作業性の向上を図ることが第一にあります。
実はE235系、頻繁に破損し交換作業発生率の高い前方監視部分と、あまり割れることはないが複雑な形状になりがちな行先表示部分のガラスを、E235系では分割しているのです。
それにプラスして平面的な前面形状とすることで、この2枚のガラスは曲面ガラスにする必要がなくなり、まずはそこでコストダウンを図ることができます。
プラスして上下で二分割する形状とすることで、下半分の前方監視部分のガラスの形状について、単純な長方形のガラスとすることが可能となり、こうすると会社として負担がものすごく減ります。
まず破損しやすい前方監視部分のガラスが、単純な長方形のガラスになることで、変な加工をしなくてもガラスの製造が可能になり、それは調達コストの削減に繋がります。
さらに縦方向の面積が縮まったことによって重量も軽くなり、交換作業をするにあたっても作業性が良く、結果工期・必要人員数ともに削減することが可能になります。
LED化による長寿命化がかなり進んだ、上部のガラスについては取り外し作業がほぼ不要になっていると見て取れ、これも保守上の大きなメリットと言えるでしょう。
ところでデザイン面において、どうして電子レンジに見えるようになったのでしょうか?
それは枠で囲まれたような形の前面形状や、ドットグラデーションの配色はもちろん影響していると言えますが、
その中でもやはりガラス部分における窓枠のうち、上下のガラスの窓枠が接する部分が上に開くヒンジのように見えること、
それと前面下部にあるガラスの洗浄作業などで主に用いる、ステップの部分が持ち手に見えてしまうということが、E235系が電子レンジに見える主な理由だと考えます。
平面顔になって電子レンジにも見えるE235系のデザインですが、そのデザインの裏には過去の教訓などを生かして、機能性・取扱性を追求した一面が大きく見えるのです。
パワーアップした機械類・システム類などすべて含めて、E235系は浸透したとはいえ一見未来の電車のように見えますが、その中身はまさにE233系の正常進化版と見ることができます。
つまり、209系から続くJR東日本新系列電車の由緒正しき系譜を継ぐ電車なのです。
まとめ
- 保守作業時における作業性向上や、調達コストを下げることが主な理由であること
- 破損頻度が比較的高く交換することも比較的多く発生するフロントガラスのうち、特に割れやすい下部の前方監視部分と比較的割れにくい上部の行先表示器部分を分けたうえで、平面顔を採用することで前方監視部分のガラス形状を単純にすることが可能となっていること
- 前方監視部分のフロントガラスを単純な形状にすることで、調達コストを下げることを可能としたうえに、E233系までの車両よりもガラス面積が小さくなったことで交換作業時の作業員さんの負担も減らすことができ、また交換時間の短縮効果も得られていること
- 登場からすでにそれなりの年数が経過し大分馴染んできたものの、やはり近未来的な印象が強くなりがちなE235系であるが、その実態は209系から続く由緒正しき新系列電車の系譜を継ぎ、先代のE233系から正常進化を果たした車両であること
- 電子レンジに見えるような理由については、上下ガラスの窓枠が接している部分がヒンジのように見え、ステップ部分が取っ手のように見えることが原因にあると考えられること