今回は京阪中之島線について失敗だったのか?なぜ作ったのか?赤字なのかについて解説していきたいと思います。
また、この記事は動画でも見ることが出来ます。内容が一部異なります。(提供:こつあず鉄道ちゃんねる)
京阪中之島線とは?
京阪中之島線は2008年10月に開業した、京阪電車の中で一番新しい路線です。
本線の天満橋から別ルートを進み、なにわ橋・大江橋・渡辺橋と経由して、中之島までを結ぶ全長約3kmの路線です。
このうちなにわ橋は本線の北浜駅、大江橋は本線の淀屋橋駅と同一扱いです。
そのため地下鉄への乗り換えについては、北浜で乗り換えが可能な堺筋線、淀屋橋で乗り換え可能な御堂筋線へ乗り換え可能で、それ以外にも渡辺橋で四つ橋線の肥後橋駅と乗り換えができます。
中之島線は全線複線の地下を走る路線となっており、約1307億円かけて建設されました。
路線名に入っている中之島と呼ばれるエリアを含む、大阪市北区の堂島川と土佐堀川に挟まれているエリアを貫くように中之島線は作られています。
沿線には美術館や科学館などの施設をはじめ、市役所などの公共施設やホテルなどがあります。
また新型コロナウイルスワクチン大規模接種会場となった自衛隊大阪大規模接種センターや、各種コンサート・ライブ・展示会などの会場で用いられる、グランキューブ大阪へのアクセス手段でもあります。
京阪中之島線はなぜ作られた?
ではどうして、京阪中之島線は建設されたのでしょうか?
これは大阪市の思惑と京阪の思惑が一致したからです。
大阪市は市内のさらなる発展のために、中之島エリアの再開発となにわ筋線の建設を計画しています。
しかし大阪市内の鉄道網は南北の移動には強いものの、東西の移動には弱いという弱点がありました。
実際中之島エリアから南北に移動できる路線は、川を渡れば四つ橋線や御堂筋線・堺筋線などが利用できます。
それに対して周辺に東西移動できる路線の駅はなく、川を渡って環状線の福島駅を利用する方法などもありますが、福島駅は比較的距離があるというのが現実。
中央線や長堀鶴見緑地線といった路線は中之島エリアよりも南を走るため、中之島からの東西移動に使うことは難しいです。
再開発を行っていくうえで利用者の増加が予想される、中之島エリアへの東西方面からアクセスできる路線の整備が課題でした。
さらに、大阪市は関西国際空港と東海道・山陽新幹線の全列車が停車する、新大阪駅のアクセス向上と輸送力の増強を図るためになにわ筋線の建設を進めています。
なにわ筋線の整備は大阪市がかなり力を入れている計画で、より多くの人に利用するにはどうするといいか検討した結果、中之島でなにわ筋線と接続して京阪の路線に直通するような路線を建設する方向になりました。
そしてこの路線を建設することで、中之島再開発による利用者増加に備えた輸送力増強にも繋がることもあり、大阪市としては中之島から京阪の路線に繋がる路線の建設も、積極的に進めていくことになったのです。
このように大阪市の思惑がある一方で、京阪としては大阪側の始発終着駅である、淀屋橋駅の混雑に悩まされていました。
ですが京阪淀屋橋駅の西側には御堂筋線の淀屋橋駅があり、ここから線路を伸ばすのは物理的に不可能です。
そこで京阪が活用した路線計画こそ、大阪市が計画していたなにわ筋線と接続する新路線です。
この計画は淀屋橋駅の混雑を緩和したい意図があった、京阪にとっても大きなメリットがあったのです。
結果として大阪市と京阪の思惑が一致して、京阪中之島線の建設が決まったのです。
ところで京阪中之島線の建設にあたっては、先ほどまでに述べた複雑な経緯があったことから、建設および列車の運行には償還型上下分離方式が採用されています。
上下分離方式とは、列車を運行する会社と線路などの列車を運行するために、必要な設備を整備する会社を分ける方式のことです。
通常新しい路線を建設する場合、その路線を運行する会社が線路などの整備を行います。
しかしこの方式では運行を担う鉄道会社の負担が大きく、新しい路線を建設する障壁になりやすいです。
その難点を解決するために使われる手法が上下分離方式で、北陸新幹線や九州新幹線に北海道新幹線などをはじめ、整備新幹線の整備についても鉄道・運輸機構が施設を保有する形で、主にこの上下分離方式での運行が採用されています。
これは国や地方自治体をはじめとした、運航を担う事業者と別の事業者が線路などの設備を建設・整備を行い、実際に列車の運行を行う鉄道会社は、線路使用料をその組織に支払った上で、列車の運行を実施していくという仕組みです。
京阪中之島線は京阪電気鉄道と大阪市、大阪府が中心に出資して作られた中之島高速鉄道株式会社が建設・整備を行い、列車の運行は京阪電気鉄道株式会社が線路使用料を支払って実施しています。
このように上下分離方式で整備された京阪中之島線ですが、本線と一体的に列車の運行が行われているのも特徴です。
天満橋から先は全ての電車が本線へ直通し、萱島までの複々線を形成する役割も担っています。
京阪中之島線は今のところ失敗・赤字も計上
都市発展のために中之島エリアに新線を建設したい大阪市と、淀屋橋駅の混雑緩和をしたい京阪の思惑が一致して、上下分離方式で建設された京阪中之島線。
ですがこの京阪中之島線、残念ながら利用者数が想定よりも伸びず、失敗の烙印を押されてしまっているのが現状です。
京阪中之島線の建設にあたって行われた需要予想では、控えめの見積もりで1日あたり72000人の利用が見込まれていました。
しかし実際には開業直後の2008年は1日平均25618人、開業から10年経った2018年は1日平均29415人。
当初の需要予測の半分にも満たない利用状況になっています。
しかも開業以降大きく利用者が増加することはなく、ほぼ横ばいの状況が続いているのです。
また、京阪中之島線は毎年赤字16億円出しているとも言われています。
そのため中之島線のダイヤは、当初と比べるとかなり変わってきました。
開業当初の中之島線のダイヤは1時間あたり上下各8本であり、区間急行が6本・快速急行が2本走るダイヤになっていました。
さらに朝のラッシュ時には通勤快急や通勤準急も設定され、中之島線への期待度が伺えるダイヤになっていたのです。
開業初年度から期待を持たれて組まれてダイヤですが、結果として思ったように利用者が伸びませんでした。
なので翌年行われたダイヤ改正から、利用実態に合わせたダイヤに改正されていきました。
例えば中之島駅発着の速達列車の一部が淀屋橋駅発着へ変更、変更で減った分は普通として運行することになったのです。
全体的に中之島線の減便となるダイヤになり、以降年々中之島線内に直通する速達列車は数を減らしていきました。
現在では平日の利用者が増える時間帯である、朝夕のラッシュ時間帯にのみ速達列車の設定がありますが、それ以外は普通のみのダイヤが組まれています。
ところで実際の利用者数が需要予測を下回ることはよくありますが、京阪中之島線は都市部に建設された路線にもかかわらずこの成績。
なぜ京阪中之島線は需要予測の半分にも満たないという、悲惨な利用実態になってしまったのでしょうか?
京阪中之島線はなぜ失敗したのか?
京阪中之島線の利用者数がなかなか伸びない理由、中之島線が失敗してしまった理由について考えてみると、5つほどの要点にまとめることができると思います。
ここからはその5つのポイントについて紹介します。
①通勤需要の減少
京阪中之島線は中之島エリアの再開発に伴って増加するであろう、鉄道での移動需要をしっかりと拾うために建設された経緯があります。
しかし経済の停滞で想定よりも中之島エリアの再開発が進まず、想定したほど通勤需要が伸びなかったのです。
さらに少子高齢化による生産年齢人口の減少や時間効率の追求、さらにより多くの人が在住できるタワマン建設などによる影響で、
郊外に住む人よりも都心部に住む人が増えたため、郊外から都心部への通勤需要が需要予測を行った時よりも減りました。
なので大阪北東部など郊外のエリアと、大阪市中心部を結ぶという京阪電車の役割の一部を担うはずだった中之島線は、これらの影響を大きく受けたと考えられます。
また直接中之島線の利用者減少には関わりませんが、これらの影響が理由なのか京阪電車全体で近年は減便傾向です。
さまざまな要素が合わさって想定よりも通勤需要が伸びず、沿線にオフィスや官公庁などが多い京阪中之島線の利用者について、想定よりも伸びなかったかもしれないでしょう。
②沿線に大きな繁華街がないこと
中之島は江戸時代にはさまざまな藩の蔵屋敷が並んでいました。
明治時代になると廃藩置県などによって蔵屋敷は無くなりますが、その蔵屋敷の跡地は商業やビジネスの中心地として整備されました。
以降このエリアはビジネス街として栄えてきており、中之島線沿線のほとんどはオフィスビルとなっています。
やはりオフィス街は土日になると出勤する人が減ってしまいます。
なので繁華街が近くにないと買い物客や行楽客などと言った、非定期利用客の利用を曜日関係なく獲得するのは難しいです。
また中之島にはグランキューブ大阪や大阪市中央公会堂といった、公演やイベントなどを行う施設もあります。
しかしこういった施設は、イベントなどがないと利用されることはありません。
こういった利用者が限定されてしまうという環境も、需要予測に反して利用者が伸び悩んでしまっている原因になります。
③乗り換えしやすい路線が少ない
京阪中之島線は走行経路の途中で、Osaka Metroの堺筋線・御堂筋線・四つ橋線と地下で立体交差しています。
これらの各地下鉄路線と接続する駅はありますが、どれも乗り換えるためには少し歩く必要があります。
特に京阪中之島線と御堂筋線・堺筋線の乗り換えをする場合は、一度地上に出て川を渡る必要もあります。
御堂筋線の接続駅である淀屋橋駅と堺筋線の接続駅である北浜駅は、それぞれ本線の淀屋橋駅・北浜駅と接続しています。
もちろん乗り換えにかかる時間も本線からの方が短く、それだったらみんな淀屋橋始発や淀屋橋行きの電車を使います。
そのため京阪電車と御堂筋線・堺筋線を乗り継ぐ場合、わざわざ中之島線を利用しようとする人はほぼいません。
唯一渡辺橋で乗り換えが可能な四つ橋線に関しても、乗継のために地下道を歩く距離はそれなりにあります。
また四つ橋線の西梅田〜大国町間は御堂筋線と並行しており、距離もほとんど離れてないという現実があります。
なので並行区間にある四つ橋線の駅の多くは、御堂筋線の最寄駅から歩いて行けるようになっています。
さらに言うと御堂筋線と四つ橋線が連絡する大国町駅は、それぞれの路線を対面で乗り換えできる構造になっています。
なので大国町駅を利用することで、御堂筋線と四つ橋線は楽に乗り換えができます。
実際に京阪電車の沿線から四つ橋線の花園町〜住之江公園間に行くルートを検索してみると、多くの場合において淀屋橋で京阪電車から御堂筋線に乗り換え、大国町で御堂筋線から四つ橋線に乗り換えるというルートが案内されます。
つまり中之島線から地下鉄各路線への乗り換えは、不可能ではないものの利便性が劣るのです。
当然利用する人はそこまで多くなく、これも乗客が想定よりも伸びていない理由と考えることができます。
④京阪本線から流れる乗客が少ないこと
中之島線は本線淀屋橋駅の混雑緩和を狙って建設された部分もあります。
そのため京阪としては中之島に用事がある人について、本線の淀屋橋駅や北浜駅よりも中之島線を使って欲しいと思っています。
しかし中之島線が開業してからも、本線から流れてくる乗客はあまり増えませんでした。
その理由は中之島線を利用すると、加算運賃が発生する運賃体系になっているからです。
先ほども紹介しましたが、天満橋を出て中之島線に入ると、なにわ橋・大江橋・渡辺橋を経由して、中之島に辿り着きます。
なにわ橋と大江橋に関してはそれぞれ本線の北浜・淀屋橋とほぼ平行した形で駅があるため、北浜・淀屋橋と同じ運賃・同一駅扱いで利用できるようになっています。
しかし渡辺橋と中之島に関しては加算運賃が設定されていて、この2つの駅を発着する場合は通常の運賃にプラスして、60円が加算される運賃体系になっているのです。
そのため京阪の初乗り普通運賃は170円ですが、中之島〜渡辺橋間の1区間に乗車した場合については、初乗り運賃に加算運賃がプラスされ運賃は230円になります。
さらに中之島はビジネス街のため通勤で利用する人が多いですが、通勤定期も加算運賃が設定されていて2240円加算されます。
営業キロが1kmに満たない淀屋橋〜北浜間について、1ヶ月定期を購入する場合の費用は4470円。
一方で中之島〜渡辺橋間の1ヶ月定期の費用は6710円です。
渡辺橋周辺は淀屋橋駅から歩いても10分ちょっとしかかかりませんので、この区間の通勤定期を支給する企業は少ないと考えることができます。
なので中之島線を避けて淀屋橋駅を選択するという人が、一定数いてもおかしくはないのです。
実際に渡辺橋駅のホーム京都側先端を望むと、大江橋駅のホームを確認することが可能であり、それも淀屋橋と渡辺橋の近さを示しています。
このように、京阪中之島線の一部の駅は加算運賃がかかるのも利用者が伸び悩む理由の1つになっていると考えられるのです。
また、京阪本線から流れる乗客の少なさもさることながら、地図上では京阪本線淀屋橋駅と中之島線大江橋駅は「1ブロック分」しか離れておらず、土佐堀川を渡ると両線に乗り換えることが出来ます。
この点についてお笑い芸人中川家が「橋渡ったらすぐやんけ」といじられていた記憶があります。
また、中之島線についての口コミでも「京阪本線が中之島線の一番の競合路線になっている」との皮肉が込められたものもあることは事実です。
⑤接続を予定しているなにわ筋線が開業していないこと
中之島線は大阪市が進めているなにわ筋線計画を成功させるための方策の1つとして考えられていましたが、なにわ筋線はまだまだ計画段階という現状です。
なにわ筋線が完成すると関空から来るJRと南海の列車が、新大阪・阪急十三方面へ簡単にアクセスできるようになります。
そのため本来考えられていた路線の役割について、100%果たせてはいないという状況なのです。
中之島でなにわ筋線と連絡するようになると、関空からやってきた観光客が京都の宇治方面をはじめとする、京阪沿線にアクセスする際の利便性が格段に上がります。
なにわ筋線と京阪電車を繋ぐという、期待されていた役割を果たす段階にまだなっていない現状を考えると、
中之島線の利用者がなかなか伸びないことについて、致し方がない事だと言えるのではないでしょうか。
京阪中之島線は今後成功するのか?
現状大阪市と京阪の思惑通りになっていない中之島線ですが、今後化ける可能性は十分考えられます。
先ほども触れたとおり、本来であれば中之島線は京阪電車沿線となにわ筋線を結ぶための重要な路線でした。
しかしなにわ筋線は最近になって、やっと建設に向けて前進し始めたところ。
まだまだ開通にはほど遠い段階です。
ところで京阪沿線には平等院鳳凰堂で有名な宇治などがあり、空港から新大阪駅へのアクセスをしやすくするために建設される、
なにわ筋線と接続して利用されるようになると、訪日観光客による利用が見込まれます。
そのため京阪中之島線が大化けするためには、なにわ筋線の全線開通が必要不可欠だと言えるのです。
なにわ筋線はここ数年になってから、やっと建設に向けて本格に動き出したと言っても過言ではありません。
京阪中之島線が大化けするには、かなり時間が必要になってくると考えられます。
USJや夢洲へのアクセスが出来れば成功するかも?
また京阪中之島線は計画段階から、中之島から先の延伸計画が考えられていました。
中之島から先九条方面に延伸することで、桜島や夢洲といったエリアを結ぶことが考えられていたのです。
桜島にはユニバーサルスタジオジャパンがあり、夢洲は万博開催後に統合型リゾート施設(IR)の建設が計画されているため、
仮にそこまで延伸ができれば、京阪沿線とのアクセスで利用者増が見込めます。
その他にも九条で阪神なんば線と接続することで、尼崎や神戸方面へアクセスできるようにする構想もあります。
また夢洲まで伸ばせなくても九条まで伸ばせれば、地下鉄中央線への乗り継ぎで夢洲へアクセスが可能です。
実現性こそ低いと考えられますが、中之島線と阪神なんば線が繋がり直通運転ができるようになれば、神戸方面と大阪北東部・宇治方面が直結されます。
さらに神戸三宮でポートライナーに乗り換える必要がありますが、神戸には余力が余っている神戸空港もあります。
この構想が実現すれば関西圏全体を巻き込んで、全体での競争力強化を狙うことも不可能ではありません。
このように京阪中之島線は可能性をたくさん秘めているのです。
ですが現状では京阪単独での延伸は資金面的にかなり難しく、国や大阪府などの経済的支援が必要です。
中之島から先の延伸に向けた検討委員会を京阪が発足し、延伸するかどうかを議論している最中のため、今後の動向に注目が集まるのも近いかもしれないでしょう。
まとめ
- 経済低迷などにより中之島の開発が想定よりも進まなかったため、通勤需要があまり伸びなかったことが大きな理由であること
- 中之島がオフィス街で路線の沿線にオフィスビルや公共施設ぐらいしかなく、そもそもとして現状では中之島線の利用者が限定されてしまうこと
- 中之島線からOsaka Metroの四つ橋線・御堂筋線・堺筋線に乗り換えられるようにはなっているものの、本線の北浜や淀屋橋で乗り換える方が楽なため、乗り換え需要についても期待できないこと
- 淀屋橋駅の混雑緩和を狙ったものの、中之島線を利用すると加算運賃がプラスされるため、思っていたよりも利用者が流れなかったこと
- また昨今の都心回帰やタワマン建設なども影響していると考えられること
- ただし今後中之島線は化ける可能性があり、そもそも中之島で接続予定のなにわ筋線の建設が進んでおらず、中之島線が持つ本来の役割をまだ100%果たせていないこと