今回は、新幹線車両の寿命について解説していきます。

また、今回の記事はこつあず鉄道ちゃんねる様提供で記事を作成しています。

(内容、素材が一部異なります。)

動画を見たい方は下記リンクから見ることができます。

新幹線車両の寿命は短い?

700系

新幹線車両の寿命は一般的に短いとされています。平均寿命は13年から20年とされることが多いです。

13年である理由として、鉄道車両の減価償却期間(税制上のルールで分割して製造コストなどを経費として計上するやり方)があり、これが鉄道車両の電車では13年と定められているので、13年で廃車するケースが多いのです。

山形新幹線E3系

13年~20年前後で廃車となってしまう新幹線車両としては2024年に登場した山形新幹線E8系の置き換え対象となる、E3系1000番台や2000番台の登場時期はどれも2003年以降となっています。

E231系

ですが、JR東日本で同期の通勤電車として存在するE231系やE531系などは、現在でも最前線で活躍しています。

京浜東北線209系

確かに、かつては13年で廃車することを前提に製造された209系もありました。そのコンセプトから使い捨てインスタントカメラのキャッチコピーを209系にあてはめ「走ルンです」「走るプレハブ」などと鉄道ファンから言われたこともありました。

209系伊豆急行線に転属したアロハ電車

しかしながら、実際には、209系の中でも登場から13年を過ぎてもまだ廃車にされていない編成や一部車両はイベント用車両として改造され、現在も活躍を続けていたり、伊豆急行線で他社路線として活躍している車両もあります。

これらのことから新幹線車両は在来線車両と比較して短いとも言えます。

しかしながら諸外国の高速鉄道と比較してみるとどうでしょうか?実は諸外国では13年で新幹線車両が廃車されることは珍しいです。

諸外国では13年廃車は珍しい TGVの例から考える

フランスの高速鉄道TGV

実は諸外国では日本のように新幹線のように高速で走行する車両の廃車が13年で行われることは珍しいです。

例としてフランスの高速鉄道で走っていた初代TGV-PSEなどと呼ばれる車両を例に挙げてみましょう。

この車掌は1978年~1988年にかけて製造された車両となっていましたが、廃車が始まったのが2012年。

最後の車両が2021年3月に引退し、登場から全社引退までに実に42年もの時間がかかり、全編成そろっている期間だけでも24年間存在します。

これはフランスの高速鉄道が長寿命化に向けた施策をとっているため、短期間で廃車する日本の高速鉄道と逆の方針をとっています。

ドイツ高速鉄道ICE

ドイツの高速鉄道・ICEでも1989年から93年にかけて製造された初代ICE 1が未だに現役です。

日本の東海道新幹線にあてはめれば、すでに引退している100系や300系車両がまだ走っていることになります。

100系新幹線フレッシュグリーン

一体なぜ、日本の新幹線の車両寿命は短くなっているのでしょうか?

新幹線車両の寿命が短い理由は?諸外国との差は一体?

東海道新幹線

ではなぜ、日本の新幹線の車両寿命はこうも短くなっているのでしょうか?

まず新幹線の場合、1日の走行距離が極めて長いことが影響しています。

新幹線の走行距離は1列車あたり数百キロにも及び、特に東海道・山陽新幹線の東京駅から博多駅まで結ぶのぞみ号ともなると、実距離で片道だけでも1069.1kmにも及びます。

こののぞみ号の実キロ1069.1kmという数値、実は日本で定期的に運行されている旅客列車の中でも、最長の数値になるものだったりします。

サンライズ出雲

ちなみに参考までに現在の在来線特急の最長は、東京〜出雲市間の寝台特急「サンライズ出雲」の953.6km。

787系にちりんシーガイア

昼行では博多〜宮崎空港間の「にちりんシーガイア」で、その距離は413.1kmであることを考えるといかに長いかがわかります。

しかも日本の新幹線の場合は列車の頻度も多いため、もちろん片道でその日の運用は終わりというわけではありません。

同一日に同じ車両を用いて、数本の列車を走らせるのが普通です。

N700S

東京〜博多間ののぞみ号に利用されているN700系とN700S系は、同一車両で1日あたり1往復から1.5往復程度、走行距離にしておよそ2000kmから3000kmも走っています。

この移動距離を最高速度300キロという、とんでもない速度で走り続けるのです。

もちろん部品への負担はかなり重く、在来線よりも車両全体の消耗率が激しくなってしまう傾向にあります。

トンネルから出てくる700系新幹線

また新幹線は在来線に比べてトンネルも多く存在するうえに、トンネルを通過すると車体にかかる気圧が大きく変わるため、車体を酷使することになります。

高速で運転する新幹線は急激な気圧の変化が起きることがあり、人によっては耳に不快感を覚える人が出る可能性があります。

これを防ぐため車体は気密構造になっていますが、その分車内と車外の間に圧力差が発生し、トンネルを出入りすると車体の膨張・収縮が起こります。

この車体の変化により金属疲労が発生しやすいため、在来線よりも車体の限界を早く迎えてしまいます。

ところで、海外の高速鉄道と比べるとどうでしょうか?

700系ドクターイエロー

実は海外、とりわけ西ヨーロッパ諸国の高速鉄道は、山岳が連続し長大トンネルが数多く存在する日本とは異なり、スイスなどごく一部を除けば平地を走る区間が多く、車体に負荷をかけるトンネルはあまり存在しません。

またトンネルそのものの規格についても、海外の方が日本よりも広めに作られるケースが多く、車体への圧力がかかりにくい設計となっています。

実際日本の新幹線とフランスのTGVを比較してみると、新幹線のトンネル断面積は64平方メートルに対して、TGVは90平方メートルと3割以上大きくなっています。

新幹線は小さなトンネル断面積とすることで、トンネル掘削コストを抑制しています。

トンネルから出てくる新幹線

一方で欧州の場合はトンネルの両側について、避難通路を設置するように定めています。

こういった火災時の安全対策を図っていることもあって、必然的にトンネルの面積が広くなっており、また複線の線路間隔も新幹線と比較して広がっています。

新幹線は材料を燃えにくくするなど、避難経路とは別の方法で安全対策をとっていますが、

その反面トンネル内での圧力はかかりやすくなり、車体が傷つき寿命を縮める原因になるといえるでしょう。

さらにICEやTGVをはじめとして、多くの場合は在来線区間を走ることも多いです。

また高速鉄道の運行において1000kmを超える列車についても、日本と中国を除くとかなり限られるのが現状です。

ヨーロッパの高速鉄道では国際列車でしか長距離列車を見かけず、1日2本だけ存在するパリ・リヨン〜バルセロナ・サンツ間を結ぶTGVなどがそれにあたります。

300系新幹線

日本では0系や100系・300系の世代に登場した、初期のTGVやICEの車両が残っているのも、ほとんどが平地の区間を走るうえに、在来線区間を経由する関係もあって1日あたりの高速走行距離が少なく、結果としてダメージが少ないためだといえるでしょう。

世界で見れば比較的高速鉄道車両の寿命が短い中国でも、平地を走る区間が長い列車や在来線を走る列車も多いため、日本よりは多少マシな環境と言えます。

ミニ新幹線を除けば常に専用線を高速走行し、なおかつ数百キロ以上の走行を行う日本の新幹線、かなり過酷な条件と言えるのではないでしょうか。

しかし、その一方でなかなか廃車されない車両も存在しています。

なかなか廃車されない長寿命の新幹線車両はあった?

登場してから15年も経てば古い車両となって、新車に置き換えられ廃車されることも多い新幹線電車ですが、その歴史の中で20年以上も使用される車両は幾らか存在します。

どのような電車があるのでしょうか?

200系新幹線

まず特に長寿命の車両が多かったのは、東北・上越新幹線の初代車両である200系です。

理由としては200系自体の数の多さや、ちょうど200系の置き換え時期に到達したころである、1990年代から2000年代にかけての社会情勢の変化にあります。
200系は1982年から1991年までの長期にわたって製造されたため、車両数が59編成700両にも及びました。

しかし初期車両が寿命を迎える1990年代後半は、ちょうど山一證券や日本長期信用銀行など、巨大企業の破綻が相次いでいました時期です。
世界に目を向けると日本では影響が小さかったものの、アジア通貨危機もあった不況真っ只中の状況にあったのです。

また当時開業間もない秋田新幹線や北陸新幹線の開業により、新たな車両の確保の必要もありました。

そのためこの当時に製造されたE2系やE3系・E4系だけでは、全ての200系の置き換えが難しい状況にありました。

また最終的に最高速度320キロにまで高速化が進むことになる東北新幹線と比べると、速度が抑えられるうえ飛行機など他の交通手段との競合も少なく、
北陸新幹線のように周波数の違いによる運用制限もなかった、上越新幹線であればまだまだ200系の活躍の場が残されていました。

200系新幹線リニューアル色

そのため1990年代には10年程度の寿命延長を目的に、一部の200系に対して大掛かりなリニューアル工事を実施。こうして200系は延命されることになりました。

このリニューアルは後期に製造された車両を中心に施工されましたが、ごく一部に開業当時からの車両への施工事例もありました。
その中には2004年の新潟県中越地震で脱線した、K25編成の一部車両なども含まれていたのですが、結果として20年以上走った長寿命車両も一定数存在しました。
特にK21編成の一部車両に至っては、K25編成同様開業時に製造された車両も存在していたため、実に29年9ヶ月も在籍というとんでもない車両もいました。
この間、JR東日本が一から開発・設計した、400系やE1系が先に全車引退しています。

ところで、200系以外に長寿命の新幹線は存在するのでしょうか?

500系新幹線


実は山陽新幹線の500系で長寿命な車両が多く存在しますが、こちらの理由については後ほど紹介します。

しかし200系と500系の事例を除いて見ると、ドクターイエローなど事業用電車を除いた新幹線の営業用車両の中で、20年以上在籍したものはほとんど存在しません。

0系新幹線リニューアル色

2024年1月時点までの歴史を辿っても、JR西日本で最後まで残っていた0系や100系の一部、E16編成を除き全て20年を超えた700系7000番代レールスター編成、そしてE4系の過半数程度の車両、E2系1000番代J54編成、E3系1000番代L55編成の一部中間車、800系のU001編成〜U004編成程度に限られます。
JRの定期列車の中で最長距離を走るのぞみ号で使われる車両、その中でもJR東海に在籍した車両を見てみると、20年以上在籍した車両が1本も存在しません。

なお東海道新幹線の初代と言える0系は、1964年の登場以来2008年まで活躍しました。

0系は在来線で実績のある鋼製の車体が使われていましたが、開業当初は先ほど述べていたトンネルによる気圧変化と、それによる金属疲労の関係があまり知られていませんでした。

結果として予想以上に早くトンネル通過による金属疲労が進行し、これが車両寿命を縮めることになってしまいました。

そのため実際に開業当初に製造された車両は、製造から13年程度が経過した1976年から1978年までにかけて、0系の追加製造車によって置き換えられています。そのため0系は全体的に必ずしも長寿車両とはいえないのです。

0系新幹線

同一の車両が20年以上の在籍期間を持つという定義のもと、長寿電車という枠組みに認定されるのは、晩年山陽新幹線のウエストひかり号やこだま号で主に使用された、一部の短い編成になった車両に限られます。

500系新幹線について振り返る

500系新幹線

では、歴代新幹線車両の中で200系と並ぶ長寿であることで知られる、500系についてここで簡単に振り返ってみます。

1996年1月に量産先行車であるW1編成が登場し、1997年3月22日のダイヤ改正で営業運転を開始。

以後1997年7月から1998年12月にかけて、量産編成となるW2編成からW9編成の8編成が製造されました。

山陽新幹線内では当時世界最高となる最高速度300キロを実現し、特にスピードが求められるのぞみ号の運用を担ってきました。

この車両による時間短縮効果は大きく、東京〜博多間の最短の所要時間は史上初めて5時間を切って4時間49分、新大阪〜博多間では最短で2時間17分となっており、初代のぞみ号の300系に比べて15分短縮する記録を立てました。

特に新大阪〜博多間における記録は、全列車の新神戸駅停車など情勢が変わったとはいえ、未だに破られていない記録です。

東京〜博多間においてもN700系登場から約8年経過した2015年3月13日のダイヤ改正で、東海道新幹線において一部列車の最高速度が285キロに引き上げられ、のぞみ64号が4時間48分で走破するようになるまで、同様に史上最短記録となっていました。

現在は4時間46分で走破しており、2024年3月ダイヤ改正からはこの列車よりも遅い時間に新大阪駅を発車する臨時のぞみ488号の新設によって、新大阪駅停車時間の短縮が可能となったことにより4時間45分で走破するようになります。

現在よりものぞみ号の本数や停車駅が少なく、特に山陽新幹線でスピードを出しやすい環境にあるとはいえ、いかに500系の性能が高かったかを物語っています。

またスピードだけでなく、トンネル由来の気圧波を減らすために採用された、戦闘機のような尖った先頭車両、空気抵抗やトンネル進入時の圧力変化を減らすための、丸型断面の車体などデザインに加えて、グレーを基調に青色の帯を配した塗装など、明らかに他の新幹線と異なる見た目となっています。

この美しいフォルムは鉄道ファンだけでなく子どもなどを含め、現在にまで続く歴代新幹線車両でも屈指の人気車両となりました。
しかし高速性能を実現するために全車軸にモーターを搭載する、全車電動車という構成になっていることや、特殊なアルミハニカム構造の車体など、製造コストも先代の300系に比べて高額でした。

16両編成1つ分で46億円ものコストがかかっていました。
結果JR西日本のみの9編成144両という、東海道・山陽新幹線の車両としては少数の製造に終わりました。
また500系は独特のデザインが災いし、居住空間が狭いという指摘を受けることも多いです。
さらに300系と比較した際の車両ごとの座席数に変動があるなど、ダイヤ乱れの時の運用面で難がでてしまいました。
そのため後継のN700系の登場後、500系は先行して外されることに。
300系よりも早い2010年2月に定期のぞみ号、ならびに東海道新幹線直通列車の運用から離脱してしまいました。 

500系新幹線が長寿すぎる理由は?

ところでこうしてみていると、500系は長寿どころかむしろ短命なのでは?と思う方もいらっしゃるかも知れません。

しかし500系はのぞみ運用離脱後、山陽新幹線のこだま用の車両として編成を8両編成に短縮。

最高速度を環境性能に合わせて285キロに抑えるなどの工事を受けて、7000番代に改番されます。

このとき外された中間車と仕様が異なる点が多く、短縮が難しかった量産先行編成のW1編成は廃車されてしまいますが、ほかの8編成は8両編成に短縮されV編成となりました。
2022年3月12日を以てかねてより運用を離脱していたV6編成と、V5編成の2編成が運用減少を理由に離脱してしまいますが、残る6本48両はなんと今も健在です。

500系新幹線エヴァンゲリオン新幹線

かつてはエヴァンゲリオン新幹線、現在はハローキティ新幹線として走る量産第一号編成のV2編成は1997年7月3日付でW2編成として新製され、2009年9月30日付で8両編成に短縮されたものです。すでに26年8ヶ月もの間走り続けていています。

ところで、どうして500系はこうも長寿を保てるのでしょうか?
それは500系の大きな特徴である、丸型断面の車体にあります。
この丸型の断面とすることによって、単純な空力的メリットの享受だけでなく、断面積の削減につなげることもできています。
そうすることによって、トンネル断面積に対して余裕が生まれます。
これによりトンネル進入時の圧力変化が減るため車体の変形が少なく、結果として車体の劣化を抑えられるようになっています。

500系新幹線キティ色


比較的厳しめな状況が続くJR西日本の経営体力の問題もあり、当初の開発陣もこれを狙って丸型断面としたようです。
本来の目的だったのぞみ号からは早々の引退となりましたが、結果としてこの施策は成功だったと言えそうです。
対して500系同様の最高速度300キロの性能を持つものの、500系とは対称的に車内空間を広げることを目的として、従来の車両と同じ箱形の断面であるN700系は、
圧力を受ける断面積が多くなってしまったために、短命で廃車される車両も多くなってしまっています。 
JR西日本からはまだ廃車が出ていないのですが、JR東海の車両については実際に短命な車両が多く、13年に満たない年数で廃車される車両もたくさん存在します。

その500系新幹線もN700系8両編成で置き換えへ?

N700系8両編成

ところで先日JR西日本はN700系16両編成のうち4編成対して、8両編成化短縮改造を実施する計画を公表しました。

それによってついに500系の6編成のうち4編成を2024年度から2026年度まで引退させることがJR西日本から発表されています。

ただ、逆に言えば500系2編成は最後まで残すことになります。

いつまで500系を使い続けるのでしょうか。

まとめ

  • 新幹線車両は高速で長距離を走行するために車両全体の消耗が激しく、平均寿命は13〜14年ほどと、在来線と比べて半分程度の寿命しか保てないこと
  • また日本の新幹線の場合沿線に数多く存在するトンネルの気圧の影響も受けやすいうえ、多くの運行本数があり1日あたりの走行距離が伸びやすいこと
  • TGVやICEなど海外諸国の高速鉄道と比べても、日本の新幹線電車では車両寿命が短いものが多いこと
  • 新幹線の歴史を見ても20年を超える在籍期間を持つ長寿車両はごくわずかで、代表的なのが200系と500系の一部車両であること
  • 東北・上越新幹線の初代となる200系は、全車両を置き換えにくい位多かった車両数、最高速度が抑えられた上越新幹線の存在などの環境要因もあって、リニューアル化で長寿を保つ車両が一定数存在し、中には29年在籍した車両も存在したこと
  • 新幹線の中でもとりわけ人気の高い500系は、トンネルからの気圧の影響力をうけにくい丸型断面の車両であることが影響して、近年まれにみる異例の長寿となっており、まだまだ走り続けるであろうことが想定されること
おすすめの記事